キーエンス出身の営業パーソン・あさひ氏が共有していた「A&Q(Answer & Question)」という商談テクニックが非常に実践的だったので紹介する。
「お客様のFAQになるな」
キーエンス時代に上司から言われていた言葉だという。
特に展示会後のフォローやインバウンド商談で起きがちなのが、商談が始まった途端に顧客から質問の嵐が飛んでくるパターンだ。
- 「防水性能は?」
- 「初期費用いくら?」
- 「納期は?」
- 「API連携できる?」
今の時代は顧客も事前にWebサイトや生成AIで情報収集しているから、聞きたいことが山ほどある状態で商談に臨んでくる。
致命的なミス:「音声版FAQ」になること
多くの営業パーソンがやってしまうのが、「聞かれたことにただ正確に答えるだけ」のマシーンになってしまうこと。
- 「防水性能は?」→「はい、IP67です」
- 「初期費用は?」→「30万円です」
- 「納期は?」→「2週間です」
- 「API連携は?」→「可能です」
正確に情報を伝えてはいるが、これでは営業パーソンではなくただの「音声版FAQ」でしかない。商談の主導権を完全に顧客に握られてしまう。
顧客がすべての質問を終えて「わかりました、検討します」と言った瞬間、商談は終了。こちらは顧客の情報を何一つ引き出せないまま、ただ情報を吸い取られただけで終わる。
営業のミッション
営業のミッションは「質問に答えること」ではない。顧客の課題を解決し、幸せになってもらうことだ。
そのためには顧客の質問の意図を掴んで、こちらから提案のボールを投げ返さなければならない。
質問の「背景」を読む
顧客の質問には必ず「背景」がある。
- 「防水性能は?」と聞く人は、水に濡れる環境で使う予定がある
- 「納期は?」と聞く人は、いつまでに稼働させたいという期限を抱えている
- 「安くなる?」と聞く人は、予算の上限が決まっている
質問そのものが「情報の宝庫」への入り口になっている。FAQボットになっている営業パーソンは、この宝の山をみすみす見逃している。
A&Q:Answer & Question
重要なのは、ボールを受けたあとにしっかり打ち返すこと。あさひ氏はこれを「キャッチ&リターン」と呼んでいた。
A&Q = Answer(回答)のあとに必ず Question(質問)をセットにする。
具体例:防水性能を聞かれたとき
ダメな対応:
「はい、IP67に対応しています」(終了)
キーエンス流の対応:
「はい、ご安心ください。最高等級のIP67に対応しております。……ちなみに、今回は防水防塵が必要になるような水や粉塵が舞う過酷な環境下でのご利用をご検討されているのですか?」
すると顧客が「実は工場の屋外ヤードに置きたくて」と答えてくれる。そこで「屋外であれば防水だけでなく直射日光による熱対策も必要ですね。遮光カバーもセットでご提案できます」と、単価アップやトラブル防止の提案に繋がる。
スペックを答えるだけでなく、「なぜそのスペックが必要なのか」という利用シーンを引き出しているのがポイント。
具体例:価格を聞かれたとき
ダメな対応:
「はい、その通りです」(価格確認マシーン)
キーエンス流の対応:
「はい、そのプランでご案内可能です。ちなみに、複数あるプランの中であえてこちらに目をつけていただけた背景をお伺いしてもよろしいですか?」
すると顧客の「選定基準」が見えてくる。「この機能が必須だから」と言われればその機能を軸にクロージングできるし、「一番安いから」と言われれば機能不足のリスクを説明する必要があるとわかる。
A&Qのリズムを身体に染み込ませる
一方的にこちらから聞くと「尋問」になる。でも相手の質問への打ち返しとして聞けば、極めて自然な「会話」になる。
- なぜ興味を持ってくれているのか
- 他社も検討中なのか
- いつ導入したいのか
- 予算は確保済みなのか
これらを全部、相手の質問を起点にした会話の中で引き出していく。
まとめ
質問に答えるのは義務。でも答えっぱなしにするのは「罪」。相手の質問を利用して相手の懐に深く潜り込む。それが単なる情報提供係から「パートナー」に昇格するための技術だ。
お客様は生成AIやGoogle検索でわかることを聞くためにあなたを呼んだわけではない。検索では出てこない「自社の課題への最適解」を求めている。
「FAQにはなるな」 ── この教えは、営業に携わるすべての人に通じる本質だと思う。
参考
- あさひ著『凡人が天才に勝つ最強の営業 営業に「センス」はいらない』(2026年3月29日発売)