「言語化が上手い」にも種類がある — 2 軸 5 分類で自分の得意・苦手を知る

もとやま(@ysk_motoyama) 氏が、「言語化」を 2 軸で整理し 5 種類に分類する考察を公開しました。

最近整理しておきたいなと思ったのが「言語化っていったい何なんだよ?」です。Amazonで検索すると、たくさんの言語化が出てきます。流派がいろいろあって、ぜんぶ言語化。あれも言語化、これも言語化。 — @ysk_motoyama

「言語化力を上げたい」と思ったとき、実は 5 種類の言語化は頭の使い方が全く異なり、間違った種類のトレーニングをしても目的の力は身につきません。自分が伸ばしたい言語化がどれなのかを特定するための分類フレームワークを解説します。

「言語化」が指すものが多すぎる問題

書店やネットで「言語化」を検索すると、全く異なる能力が同じ言葉で呼ばれていることに気づきます。

  • 自分の感情を書き出すこと = 言語化
  • 人が言い表せないモヤモヤを一言で言い表すこと = 言語化
  • 素敵なキャッチコピーを生み出すこと = 言語化
  • 俳句とか歌 = 言語化

これらは全て「言語化」ですが、必要な頭の使い方が根本的に違います。構造化が上手くなりたいのにジャーナリングの練習をしても、いつまでも構造的に物事を整理できないまま、ということが起こり得ます。

2 軸のフレームワーク

もとやま氏は大量の言語化に関する書籍や記事を読み込み、2 軸で整理できることを発見しました。

軸 1: 何を言語化するか

対象説明
外界観察できる事実、誰かの発言、何かの状態市場データ、アンケート結果、業務フロー
内面感情、欲求、価値観、解釈モヤモヤ、怒り、直感的な違和感

軸 2: どう言語化するか

方向性説明
0→1何もないところから生み出す
100→10混沌としたものを整理する
10→1ギュッと圧縮してまとめる

この 2 軸を掛け合わせると、言語化は 5 種類に分類できます。

              外界(事実・状態)          内面(感情・価値観)
            ┌──────────────────┬──────────────────┐
  0→1       │ (1) コピーライティング │ (4) アート         │
  生み出す   │     的な言語化       │     的な言語化     │
            ├──────────────────┼──────────────────┤
  100→10    │ (2) 構造化         │ (5) ジャーナリング  │
  整理する   │     的な言語化       │     的な言語化     │
            ├──────────────────┼──────────────────┤
  10→1      │ (3) 要約           │                   │
  圧縮する   │     的な言語化       │                   │
            └──────────────────┴──────────────────┘

5 種類の詳細

(1) コピーライティング的な言語化

定義: まだ世の中に形として存在していない価値や概念を、短い言葉で新たに定義する力

方向性: 0→1(外界)

具体例:

  • 任天堂 Wii のコンセプト「家族皆で、リビングでゲーム」「お母さんに嫌われない」
  • ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」
  • タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」

短い言葉で関係者の認識を揃え、人を動かす力があります。「無」から言葉を生み出す(0→1)という点が最大の特徴で、既存の情報を整理・圧縮するのとは根本的に頭の使い方が違います

もとやま氏自身はこの種の言語化が苦手だと述べています。note のメンバーシップに「シゴデキ部屋」という名前をつけてしまったことを例に挙げ、もっとコンセプチュアルな名前であれば登録者が増えたかもしれない、と振り返っています。

参考書籍: 『コンセプトのつくりかた』(玉樹真一郎著)— Wii のコンセプトを実際に作った方の書籍

(2) 構造化的な言語化

定義: 混沌とした情報群から、背後にあるパターンや構造を見抜いて「要はこういうことだ」と紐解く力

方向性: 100→10(外界)

具体例:

  • 大量のアンケートコメント(UI/UX の不満、サポート対応の遅さ、通信品質の問題など)を読み、「プロダクト品質」「サポート体制」「UX 設計」というカテゴリに分類・構造化する

複雑な現象や大量の情報を、見通しのよいフレームワークや図解に落とし込むことで、相手に「スッキリ言語化してもらった」と感じてもらえます。

もとやま氏の 「構造化」とは結局なにをすることなのか という記事では、構造化を「全体を定義し、構成要素に分解し、要素間の因果関係を明らかにすること」と定義しています。この記事は 125 万インプレッションを獲得しました。

コピーライティング的言語化が「無から生む」のに対し、こちらは「すでにある混沌を整理する」という方向性です。

(3) 要約的な言語化

定義: 情報をギュッと圧縮して「要はポイントは 3 つあって〜」と短く要点を伝える力

方向性: 10→1(外界)

コピーライティング(短い言葉にする点)や構造化(複雑なものを簡略化する点)と似ていますが、頭の使い方が異なります。

要約のプロセス:

1. 要約する目的を定め、「問い」の形に変換する
2. 問いに対する「答え」を言葉にする
3. 答えに対する「根拠」を言葉にする

本の要約の例: 著者が一冊を通して白黒つけたい問いをまず特定し、その問いへの答えと根拠を本文から抽出します。

人に伝える場面の例: 聞き手が最も関心を持っている問いを想定し、答え・根拠を整理したうえで、相手の知識レベルやこだわりを考慮して伝える順番と言葉の難易度を調整します。

つまり「誰のために・何のために圧縮するか」という目的意識が要約的な言語化の核です。

(4) アート的な言語化

定義: 誰もがうまく言い表せない人間の内面(感情・情緒・機微)を、詩・歌・俳句などの表現で形にする力

方向性: 0→1(内面)

具体例:

  • 米津玄師「Lemon」の歌詞
  • 紫式部の和歌「めぐりあひて 見しやそれとも わかぬまに 雲がくれにし 夜半の月かな」

コピーライティング的言語化と同じく 0→1 で生み出す行為ですが、対象が「外界の価値・概念」ではなく「人間の内面」である点が異なります。

(5) ジャーナリング的な言語化

定義: 頭の中のモヤモヤ(怒り、不安、焦り、疑問など)を紙やメモアプリに書き出して整理する力

方向性: 100→10(内面)

具体例: 「上司に怒られた」「あのタスクの振られ方にムカつく」「あれもこれもやらなきゃ」といった混沌を、書き出すことで「なんだ、悩みはこの 3 つだったのか」とスッキリさせる

実践方法: 何かモヤっとしたことが起きたとき、以下を A4 用紙 1 枚に 2 分で書き出します。

  1. 何が起きたのか
  2. そのとき何を感じたのか
  3. なぜそう感じたのか

重要なのは、日常的に内面を言葉にして記録し続けると、(1) のコピーライティング的言語化や (4) のアート的言語化の土台になるという点です。秀逸なコピーも名曲の歌詞も、結局は日常の言葉や体験の蓄積から生まれます。

AI 時代に「言語化」が再注目される理由

この 5 分類は、AI 時代のスキルとして読み直すと新しい意味を持ちます。

プロンプトエンジニアリング = 構造化 + 要約的言語化

LLM に良い出力を得るには、何をしてほしいかを正確に言語化する必要があります。これはまさに構造化的言語化(混沌とした要件を整理する)と要約的言語化(目的に応じて圧縮する)の組み合わせです。

曖昧な要件 →(構造化)→ 整理された要件 →(要約)→ プロンプト

プロンプトが曖昧だと出力も曖昧になる、という問題の根本原因は「言語化力の不足」です。

コンテキストエンジニアリング = 要約的言語化の極致

Andrej Karpathy が提唱したコンテキストエンジニアリング — 「次のステップに必要な最適な情報だけをコンテキストウィンドウに入れる技術」— は、要約的言語化の「誰のために・何のために圧縮するか」という目的意識と同じ構造です。

要約的言語化コンテキストエンジニアリング
聞き手の関心に合わせて圧縮LLM の次のステップに合わせて圧縮
不要な情報を削ぎ落とすコンテキストウィンドウの無駄遣いを防ぐ
問い → 答え → 根拠の順で構成CLAUDE.md → Skills → RAG の順で構成

5 種類と AI ツールの対応

AI は一部の言語化を代替し、一部の言語化は人間に残ります。

種類AI の得意/不得意人間の役割
(1) コピーライティング候補生成は得意、最終選定は人間「これだ」と決める審美眼
(2) 構造化MECE 分解は得意「何を構造化するか」の問い設定
(3) 要約文章要約は得意「誰に・何のために」の目的設定
(4) アート模倣は可能、独創は苦手感情の真正性
(5) ジャーナリング壁打ち相手にはなれる内面の自己認識そのもの

AI 時代に最も価値が上がるのは (1) と (5) です。構造化・要約は AI が高精度で代替できますが、「無から概念を生み出す」コピーライティングと「自分の内面を掘り下げる」ジャーナリングは、本質的に人間の行為だからです。

もとやま氏の関連する言語化シリーズ

もとやま氏(PwC 出身コンサルタント、Globis 講師、著書『投資としての読書』)は、ビジネスで曖昧に使われる概念を構造化的に言語化するシリーズを展開しています。

記事テーマポイント
「構造化」とは結局なにをすることなのか構造化の定義全体定義 → 分解 → 因果関係の 3 ステップ
「頭の回転が速い」とはどんな状態か認知の速さ脳内検索のキーワードと引き出しの豊富さ
視点・視野・視座をちゃんと整理してみた思考の軸視座が上がると視野が自動的に広がる

これらの記事自体が (2) 構造化的言語化の実践例です。「構造化」という曖昧な概念を構造化して見せるという、メタ的な言語化を行っています。

トレーニング方法の違い

5 種類の言語化は頭の使い方が違うため、トレーニング方法も異なります。

種類トレーニング方法
(1) コピーライティング名コピーの収集・分析、『コンセプトのつくりかた』等の書籍
(2) 構造化MECE・ピラミッドストラクチャーの訓練、事象の分類練習
(3) 要約「問い → 答え → 根拠」の形式で本や記事を要約する習慣
(4) アート詩・短歌・エッセイの創作、感情を言葉にする練習
(5) ジャーナリング毎日 A4 用紙 1 枚に 2 分で「何が起きた・何を感じた・なぜ」を書く

自分が伸ばしたい言語化がどれなのかをハッキリさせたうえでトレーニングを積む。これがこの 5 分類の最も実践的な使い方です。

まとめ

  • 言語化は 5 種類に分類できる: コピーライティング的(0→1 外界)、構造化的(100→10 外界)、要約的(10→1 外界)、アート的(0→1 内面)、ジャーナリング的(100→10 内面)
  • 2 軸で整理: 「何を言語化するか」(外界 vs 内面)と「どう言語化するか」(生み出す / 整理する / 圧縮する)
  • 頭の使い方が全く違う: 構造化を伸ばしたいのにジャーナリングを練習しても効果がない
  • AI 時代に価値が上がるのは (1) と (5): 構造化・要約は AI が代替可能だが、概念創造と内面掘り下げは人間固有
  • プロンプトエンジニアリングは構造化 + 要約: LLM への指示の質は言語化力に直結する
  • ジャーナリングがコピーライティングの土台: 日常的な内面の言語化が、秀逸なコピーやアートの原料になる
  • まず自分の「伸ばしたい言語化」を特定してからトレーニングすべき: 5 分類は自己診断ツールとして使える

参考