「AI疲れ」という言葉が広がる中、Claude Code のハーネス機能(Skill, Agent, MCP, Memory)は不要であり、シンプルな CLI で十分だという主張が話題になっている。この議論の論点を整理し、実際の開発現場での実用性を考察する。

話題の発端

Kai Aoki 氏(@kaixaoki)が X で投稿した「AI疲れしてる各位に贈るアンサー」が注目を集めた(2026年3月時点で 531 いいね、462 ブックマーク、約9.8万表示)。

主張は以下の4点:

  1. ドキュメントが全て — コードや設定よりもドキュメントが最重要
  2. Skill, Agent, MCP, Memory 全て不要 — CLI で解決可能
  3. ハーネス独自機能は全て不要 — 物理マシン/VM で隔離せよ
  4. 賢いモデルがいずれ全てを解決する — 機能追加より待つべき

さらに「特に Claude Code はハーネスを複雑化してロックインし、虚業を生み出しているので Evil」と結論づけている。

各論点の検討

ドキュメントが全て

これは多くの開発者が同意できる主張だ。CLAUDE.md や README に適切な情報を書いておけば、AI エージェントは文脈を理解して適切に動作する。実際、Claude Code の公式ドキュメントでも「CLAUDE.md に何を書くか」が最も重要な設定項目として紹介されている。

ただし、ドキュメントだけでは解決しづらい課題もある。繰り返しのワークフロー自動化や、外部サービスとの連携は、仕組みとして定義した方が効率的なケースがある。

Skill/Agent/MCP/Memory は不要か

シンプルな使い方なら不要というのは正しい。1ファイルのバグ修正やコードレビューに Skill や Agent は必要ない。

一方、以下のようなケースではこれらの機能が実用的な価値を持つ:

  • Skill: 定型作業(ブログ記事作成、PR レビュー、デプロイ手順)を毎回説明する手間を省く
  • Agent: 並列タスク実行(ファクトチェックと SEO 分析の同時実行など)
  • MCP: 外部 API やデータベースへのアクセスを安全に管理する
  • Memory: プロジェクト固有の慣習やユーザーの好みを会話をまたいで保持する

要は「必要な人には必要、不要な人には不要」という当たり前の結論になる。問題は、これらの機能がオプトインであるかどうかだ。Claude Code ではいずれも使わなければ存在しないのと同じであり、強制されるものではない。

ハーネスより物理隔離

セキュリティの観点からの「VM や物理マシンで隔離せよ」という主張は、理にかなっている。サンドボックスやパーミッション制御に頼るより、ネットワークレベルで隔離する方が確実だ。

実際に、本番環境に近いデータを扱う場合や、信頼性の低い MCP サーバーを使う場合には、隔離環境での実行が推奨される。ただし、日常的な開発作業で毎回 VM を立てるのはオーバーヘッドが大きい。リスクに応じた使い分けが現実的だろう。

賢いモデルがいずれ全てを解決する

これは半分正しく、半分は楽観的すぎる。モデルの能力向上によって不要になる機能は確かにある。たとえば、コンテキストウィンドウが十分に大きくなれば Memory の必要性は減る。

しかし、外部システムとの連携(MCP)やワークフローの自動化(Skill)はモデルの能力とは別の問題だ。どれだけ賢いモデルでも、API キーの管理やファイルシステムのパーミッション制御は「モデルの外側」で解決すべき課題として残る。

ロックインの懸念

「ハーネスを複雑化してロックイン」という指摘は傾聴に値する。Claude Code の CLAUDE.md や Skill 定義は、そのツールに依存した形式で書かれる。他の AI コーディングツールに移行する際、これらの資産は直接使えない。

ただし、ロックインの程度は限定的だ:

  • CLAUDE.md: Markdown テキストなので、他ツールの設定ファイルに変換しやすい
  • Skill: シェルスクリプトとプロンプトの組み合わせであり、概念自体は汎用的
  • MCP: オープンなプロトコル仕様であり、複数のツールがサポートしている

完全にポータブルではないが、「虚業」と呼ぶほどの深刻なロックインとは言いがたい。

まとめ

「AI疲れ」の根本にあるのは、新しい機能や概念が次々と現れる速度への疲弊だろう。その点では、「まずはシンプルに使え」というメッセージには価値がある。

実際の開発では:

  • まず CLAUDE.md をしっかり書くことから始める
  • Skill や Agent は繰り返し作業が発生してから導入する
  • MCP は外部連携が必要になってから検討する
  • セキュリティが重要な場面では隔離環境を併用する

全部入りで使う必要はない。自分のワークフローに合った機能だけを選んで使うのが、AI疲れを避ける最も現実的なアプローチだ。