Claude Code の /simplify と /batch — AI コーディングは「書く」から「整える・並列で移す」へ

Tsukasansan 氏のポストが、Claude Code v2.1.63 で追加された 2 つの新スキル /simplify/batch を紹介しています。この 2 つのスキルは、AI の役割を「コードを書く補助ツール」から「品質を整え、大規模な変更を並列実行する分業チーム」へと変える転換点です。

  1. /simplify — PRに出す前の「仕上げ」を自動化
  2. /batch — 大規模マイグレーションを並列で一気に実行

Claude Code の開発者 Boris Cherny 氏も、この 2 つのスキルについて「毎日使っている」と述べています

/simplify: 3 つのエージェントによる自動コードレビュー

/simplify は、実装完了後に実行する「仕上げ」コマンドです。git diff で最近の変更を検出し、3 つの専門レビューエージェントを並列実行します。

3 つのレビュー観点

エージェント検出対象具体例
コード再利用重複ロジック、既存ユーティリティで置き換え可能なコード同じバリデーションが 3 箇所にコピペされている
コード品質冗長な状態管理、パラメータの肥大化、リーク抽象化引数が 8 個ある関数、使われていない変数
効率性不要な処理、並列化の機会、ホットパス内の重い処理ループ内での毎回の DB クエリ、不要な再レンダリング

3 つのエージェントが問題を検出するだけでなく、修正まで自動的に適用します。従来のリンターと異なり、高レベルのアーキテクチャ上の問題に対応するのが特徴です。

使い方

1
2
3
4
5
6
7
# 基本: 変更ファイルを自動レビュー・修正
/simplify

# 特定の観点にフォーカス
/simplify focus on memory efficiency
/simplify check for unnecessary dependencies
/simplify focus on security patterns in the auth flow

実践的なワークフロー

実装完了後、PR を出す前に /simplify を実行するだけです。

1. Claude Code で機能を実装する
2. /simplify を実行する
3. 差分を確認して問題なければ PR を作成する

実際の運用では、/simplify1 つのフィーチャーブランチあたり 3〜5 個の問題を検出するとの報告があります。これは人間がレビューで発見する問題の多くを、PR 提出前に自動的にキャッチできることを意味します。

/batch: 大規模マイグレーションを並列実行

/batch は、コードベース全体にまたがる変更を数十のエージェントが並列で実行するスキルです。フレームワーク移行、API 契約変更、命名規則の統一など、ファイルごとに独立した変更を一気に処理できます。

3 フェーズの実行フロー

Phase 1: 計画・分析

Explore エージェントがコードベースを調査し、作業を 5〜30 の独立したユニットに分解します。各ユニットは他のユニットに依存しない独立した変更です。

/batch migrate src/ from Solid to React

このコマンドを実行すると、Claude は対象ファイルを調査し、「ComponentA の移行」「ComponentB の移行」…のようにユニットに分解した計画を提示します。

Phase 2: 並列実行

計画を承認すると、各ユニットに 1 つのバックグラウンドエージェントが割り当てられます。各エージェントは独立した git worktreeで動作するため、互いに干渉しません。

各エージェントが行う処理:

  1. 担当ユニットの実装
  2. /simplify による自動クリーンアップ
  3. テストの実行
  4. コミットと PR の作成

Phase 3: 進捗追跡

ステータステーブルでリアルタイムに進捗を確認できます。各 PR は独立してレビュー・マージできます。

具体的な使用例

 1
 2
 3
 4
 5
 6
 7
 8
 9
10
11
12
13
14
# フレームワーク移行
/batch convert all React class components in src/components/ to functional components

# API 標準化
/batch standardize all error responses to { error: string, code: number, details?: object }

# 命名規則の統一
/batch rename all database columns from camelCase to snake_case

# ライブラリ置き換え
/batch replace all lodash with native equivalents

# バリデーション追加
/batch add input validation to all API endpoints

git worktree による隔離

/batch の信頼性を支えているのは git worktree による隔離です。

main branch
├── worktree-1 (branch: batch/unit-1) → Agent 1
├── worktree-2 (branch: batch/unit-2) → Agent 2
├── worktree-3 (branch: batch/unit-3) → Agent 3
└── ...

各エージェントが独立したブランチと作業コピーで動作するため、マージコンフリクトや相互干渉が発生しません。各ユニットは独立してテスト・レビュー・マージが可能です。

/simplify と /batch の使い分け

2 つのスキルは補完的な関係にあります。

観点/simplify/batch
対象範囲最近変更したファイルコードベース全体
実行タイミング実装(仕上げ)実装(計画→実行)
エージェント数3 個(レビュアー)5〜30 個(実装者)
出力直接修正を適用複数の PR
Git 要件不要必須(worktree を使用)
承認ステップ差分確認計画承認 → PR 確認

さらに、/batch の各ワーカーは完了前に自動的に /simplify を実行します。つまり、すべての PR は既に 3 段階レビューを通過した状態で作成されます。

AI の役割の変化: 「書く」から「整える・移す」へ

この 2 つのスキルが示すのは、AI コーディングの焦点の移動です。

フェーズAI の役割代表的な操作
Phase 1: 書くコード生成「この機能を実装して」
Phase 2: 整える品質保証/simplify で仕上げる
Phase 3: 移す大規模移行/batch で並列実行

Qiita の解説記事が指摘するように、AI コーディングは「コードを生成する」段階から「生成後の安定化と再現可能な大規模変更」の段階に進みました。実装の品質よりも、実装後のメンテナンスとマイグレーションが開発のボトルネックになっている現場では、この進化は大きな意味を持ちます。

ハーネスエンジニアリングとの接続

/simplify/batch は、ハーネスエンジニアリングの実装例としても読み解けます。

  • /simplify の 3 並列エージェント = ハーネスの Isolate 原則(重い作業をサブエージェントに隔離)
  • /batch の git worktree = ハーネスの Offload 原則(状態を外部に退避して干渉を防ぐ)
  • /batch/simplify の自動連携 = ハーネスの フィードバックループ(各ステップの出力を次のステップが検証)

これらのスキルは、Claude Code のハーネスが提供する「シンプルな枠組み」の上に、具体的なワークフローを載せた好例です。

まとめ

  • /simplify は 3 つの並列エージェントによる自動コードレビュー: コード再利用・品質・効率性の 3 観点で検出と修正を自動実行する
  • /batch は git worktree を使った大規模並列マイグレーション: 5〜30 のエージェントが独立したワークツリーで同時に作業する
  • /batch は自動的に /simplify を内包する: すべての PR が 3 段階レビュー済みで作成される
  • AI の役割が「書く」から「整える・移す」に移行: 実装後の品質保証と大規模変更の自動化が焦点に
  • ハーネスエンジニアリングの実践例: Isolate、Offload、フィードバックループの具体的な実装

参考