labor-law-mcp — Claude の労務ハルシネーションを防ぐ MCP サーバーと「一次情報 / 二次情報」の設計思想

sabaaji0113氏のポストが、労務法令の条文と通達を Claude に提供する MCP サーバー「labor-law-mcp」の公開を告知し、804いいね、143RT、937ブックマーク、約63,000表示と大きな反響を呼んでいます。

税務より苦労した!!労務MCPサーバー「labor-law-mcp」を公開しました。Claudeが労務の質問に答えるとき、条文や通達のハルシネーションを防ぐためのMCPサーバーです。 — sabaaji0113

このプロジェクトが注目される理由は3つあります。第一に、法律というハルシネーションが許されない領域で一次情報への直接アクセスを実現していること。第二に、先行する税法版(tax-law-mcp)のアーキテクチャを応用し、取得できない情報を「ごまかさない」設計を導入したこと。第三に、社労士・会計事務所という明確な実務ユーザーを想定していることです。

labor-law-mcp の全体像

基本情報

項目内容
開発者kentaroajisaka
GitHubkentaroajisaka/labor-law-mcp
npmlabor-law-mcp
ライセンスMIT
言語TypeScript 99.4%
Stars35
対応法令数45法令

6つのツール

ツールデータソース機能
get_lawe-Gov 法令API v2法令名 + 条番号で条文を Markdown 形式で取得
search_lawe-Gov 法令API v2キーワードで法令を横断検索
search_mhlw_tsutatsu厚労省法令等DB厚労省通達をキーワード検索
get_mhlw_tsutatsu厚労省法令等DB通達本文を HTML→テキスト変換して取得
search_jaish_tsutatsu安全衛生情報センター安衛法関連通達を検索
get_jaish_tsutatsu安全衛生情報センター安衛通達本文を取得

対応法令(45法令・6カテゴリ)

カテゴリ主要法令
労働基準労働基準法、労働契約法、最低賃金法、同施行令・規則
労働安全衛生労働安全衛生法、じん肺法、同施行令・規則
労働保険労災保険法、雇用保険法、労働保険料徴収法
雇用対策職業安定法、労働者派遣法、障害者雇用促進法
均等・ワークライフバランス育児介護休業法、男女雇用機会均等法、パート有期法
社会保険健康保険法、厚生年金保険法、国民年金法、介護保険法

略称にも対応しています。「労基法」「安衛法」「育介法」「健保法」「パワハラ防止法」など12の略称で自然に質問できます。

3つのデータソースと「分散問題」

税法との構造的な違い

著者が「税務より苦労した」と述べた理由は、データソースの分散にあります。

観点税法(tax-law-mcp)労務(labor-law-mcp)
法令e-Gov 法令APIe-Gov 法令API
通達国税庁サイト(1箇所)厚労省DB + JAISH(2箇所)
判例・裁決国税不服審判所(1,950件)対応なし(今後の課題)
データの統一性比較的統一ソースごとに形式が異なる
カバレッジほぼ完結パワハラ防止指針等の告示 PDF が取得不可

税法は e-Gov + 国税庁 + 国税不服審判所の3ソースでほぼカバーできます。一方、労務は厚労省の通達データベース、安全衛生情報センター(JAISH)、さらに告示 PDF など、データソースが分散しています。

3つのデータソースの詳細

1. e-Gov 法令API v2

デジタル庁が提供する法令検索 APIです。憲法・法律・政令・省令をプログラマティックにアクセスできます。JSON / XML 両形式に対応し、labor-law-mcp はこの API から条文を Markdown 形式に変換して Claude に提供します。

2. 厚労省法令等データベース

厚生労働省が提供する通達検索サービスです。36協定、パワハラ防止指針の運用通達など、法令本文には書かれていない実務的な解釈・運用基準が収録されています。公式 API は提供されておらず、labor-law-mcp は HTML をスクレイピングしてテキスト変換しています。

3. 安全衛生情報センター(JAISH)

中央労働災害防止協会が運営する安全衛生情報のポータルです。労働安全衛生法に関連する通達が収録されています。こちらも API は非公開で、スクレイピングで取得しています。

「一次情報 / 二次情報」の設計思想

labor-law-mcp の最も独創的な設計は、情報の出所と信頼度を明示的に区分する仕組みです。

取得できないケースへの対応

パワハラ防止指針のような告示 PDF は、どの API からも取得できないケースがあります。従来の AI ツールではこのような場合、モデルが学習データから「それらしい」回答を生成してしまい、ハルシネーションが発生します。

labor-law-mcp はこの問題に対して、「取れなかった」ことを隠さない設計を採用しています。

情報の3層分類

情報源取得方法信頼度
一次情報e-Gov 法令API、厚労省DB、JAISHMCP サーバー経由で原文取得最高(法令・通達の原文)
二次情報(高)政府系サイトWebSearch で補完
二次情報(中)法律事務所の解説記事WebSearch で補完
二次情報(低)個人ブログ等WebSearch で補完

この設計により、ユーザー(社労士・会計事務所)は以下を判断できます。

  • この回答は法令の原文に基づいているのか
  • 通達に基づいているのか
  • Web 検索で見つかった解説記事に基づいているのか
  • そもそも一次情報が取得できなかったのか

著者の言葉を借りれば「AIが『取れなかった』ことをごまかさず、ユーザーが情報の確度を判断できるようにしている。これでclaudeと喧嘩しませんね。」

法律 AI のハルシネーション問題

labor-law-mcp が解決しようとしている問題は、法律分野における AI ハルシネーションの深刻さです。

研究が示す実態

スタンフォード大学の研究論文によると、RAG(Retrieval-Augmented Generation)を搭載した法律 AI ツールでもハルシネーション率は 17% 〜 33% に達します。

ツールハルシネーション率
Lexis+ AI(LexisNexis)17% 〜 33%
Westlaw AI-Assisted Research(Thomson Reuters)同上
Ask Practical Law AI同上

RAG は「ハルシネーションを排除する」と宣伝されることがありますが、取得した文書を忠実に再現する保証はありません

社労士業界の課題

荻生労務研究所の解説によると、AI に「労働基準法に関する最新の判例」を尋ねた場合、実際には存在しない判例や架空の法解釈を「それらしく」提示してしまうケースがあります。誤った判例情報が就業規則の改正に反映されると、企業は不当な処遇や法令違反のリスクを負います。

labor-law-mcp のアプローチは、RAG のように「検索して要約する」のではなく、一次情報の原文をそのまま Claude に渡す点が異なります。Claude は原文を参照しながら回答を生成するため、条文の引用ミスが構造的に抑制されます。

tax-law-mcp との比較 — 姉妹プロジェクト

labor-law-mcp は、先行する税法版 MCP サーバー tax-law-mcp のアーキテクチャを応用して作られています。

機能比較

機能tax-law-mcplabor-law-mcp
法令取得e-Gov 法令API(24法令)e-Gov 法令API(45法令)
通達国税庁(17通達)厚労省DB + JAISH
判例・裁決国税不服審判所(1,950件)なし
REST APIあり(v0.4.0+、OpenAPI 3.1)なし
Vercel デプロイ対応なし
ツール数76
Stars5635

相互フィードバックの効果

著者は「作る順番が tax→labor だったからこそ得られた改善」と述べています。labor-law-mcp の開発で得た知見(一次情報/二次情報の区分、信頼度の付記など)は tax-law-mcp にもフィードバックされ、両方のプロジェクトが同時に洗練されました。

セットアップ方法

Claude Code(1行)

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claude mcp add labor-law -- npx -y labor-law-mcp

Claude Desktop

~/Library/Application Support/Claude/claude_desktop_config.json に追加:

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{
  "mcpServers": {
    "labor-law": {
      "command": "npx",
      "args": ["-y", "labor-law-mcp"]
    }
  }
}

税法版も同時に使いたい場合:

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{
  "mcpServers": {
    "labor-law": {
      "command": "npx",
      "args": ["-y", "labor-law-mcp"]
    },
    "tax-law": {
      "command": "npx",
      "args": ["-y", "tax-law-mcp"]
    }
  }
}

使用例

ユーザー: 36協定の上限時間について教えて

Claude(labor-law-mcp 経由):
[一次情報] 労働基準法第36条(e-Gov法令APIから取得)
  → 条文原文を表示

[一次情報] 36協定に関する厚労省通達(厚労省DBから取得)
  → 通達原文を表示

[二次情報・信頼度:高] 厚生労働省「時間外労働の上限規制」ページ
  → 解説内容と情報源URL

他の法令 MCP サーバーとの比較

labor-law-mcp 以外にも、日本の法令にアクセスする MCP サーバーが複数存在します。

MCP サーバー対応範囲データソース特徴
labor-law-mcp労働・社会保険法令(45法令)+ 通達e-Gov + 厚労省DB + JAISH通達まで含む、信頼度区分
tax-law-mcp税法(24法令)+ 通達 + 裁決e-Gov + 国税庁 + 不服審判所REST API 対応、判例検索
hourei-mcp-server全法令(汎用)e-Gov 法令API法令全般の条文検索
e-gov-law-mcp全法令(汎用)e-Gov 法令APILobeHub 登録済み

labor-law-mcp の差別化ポイントは、法令本文だけでなく通達まで含む点と、一次情報/二次情報の明示的な区分です。汎用の法令 MCP サーバーは e-Gov の法令条文しか取得できませんが、実務では通達(行政の解釈・運用基準)が重要な判断材料になります。

注意点と限界

取得できない情報

  • 告示 PDF: パワハラ防止指針のような告示は PDF 形式で公開されており、API でもスクレイピングでも取得が困難なケースがある
  • 判例: 労務分野の裁判例検索には対応していない(税法版の国税不服審判所のような統一的な判例データベースが労務分野にはない)
  • 最新の法改正: e-Gov 法令API の更新タイミングに依存

利用上の注意

  • あくまで参考ツール: 著者も「あくまで参考ですが」と明記している。MCP サーバーの出力を最終的な法的判断の根拠にすべきではない
  • 厚労省通達の利用規約: 厚生労働省ホームページの利用規約に基づく利用が必要
  • 専門家の確認: 社労士・弁護士による最終確認は依然として必要

MCP のセキュリティ考慮

MCP サーバーの導入にはセキュリティ上の考慮が必要です。labor-law-mcp は公的 API とウェブサイトへの読み取りアクセスのみを行いますが、npm パッケージとして実行されるため、以下を確認すべきです。

  • ソースコードが GitHub で公開されていること(MIT ライセンス)
  • 外部への書き込みや認証情報の送信を行わないこと
  • npm の依存関係に不審なパッケージが含まれていないこと

まとめ

  • labor-law-mcp は45法令の条文と通達を Claude に提供する MCP サーバー: e-Gov 法令API、厚労省法令等DB、安全衛生情報センターの3ソースから一次情報を取得し、ハルシネーションを構造的に抑制する
  • 「一次情報 / 二次情報」の明示的な区分が最大の設計ポイント: MCP で取得した原文を一次情報、WebSearch で補完した情報を二次情報として分類し、信頼度(政府系→高 / 法律事務所→中 / 個人ブログ→低)を付記する
  • 労務は税法より「分散問題」が深刻: 厚労省DB、JAISH、告示 PDF など情報源が分散しており、単一の API ではカバーしきれない。この課題を3ソース対応で解決している
  • 法律 AI のハルシネーション率は17〜33%: RAG を搭載した商用ツールでもこの水準。labor-law-mcp は要約ではなく原文をそのまま渡すアプローチで、引用ミスを構造的に抑制
  • tax-law-mcp との相互フィードバックで両方が洗練: 税法→労務の順で開発した知見が両プロジェクトに還元される好循環
  • セットアップは1行: claude mcp add labor-law -- npx -y labor-law-mcp で即座に利用可能
  • あくまで参考ツール: 社労士・弁護士による最終確認は依然として必要。AI の出力を法的判断の最終根拠にすべきではない

参考