20歳の中国の大学4年生・郭航江(Guo Hangjiang)氏が、わずか10日間の Vibe Coding で開発した OSS「MiroFish」が GitHub Trending で3日連続1位を獲得し、Star 数は約 11,000 を超えて急増中です。さらに、盛大グループ創業者の陳天橋氏がデモを見て24時間以内に3,000万元(約6.9億円)の即決投資を行ったと報じられています。
MiroFish とは
MiroFish は、マルチエージェント技術を活用した次世代の AI 予測エンジンです。ニュース・政策・金融データなどのテキストを投入すると、AI が数千の人格を持つエージェントを生成し、エージェント同士が相互作用することで未来の社会・市場の動きをシミュレートします。
公式の説明では「A Simple and Universal Swarm Intelligence Engine, Predicting Anything(簡潔で汎用的な群体知能エンジン、万物を予測)」とされています。
仕組み
MiroFish の動作は以下のステップで構成されます。
- シード情報の抽出 — ニュース速報、政策草案、金融シグナルなどの現実世界のデータを取り込む
- デジタルワールドの構築 — 取り込んだ情報から高忠実度な並行デジタル世界を自動構築
- エージェントの生成 — 独立した人格、長期記憶、行動ロジックを持つ数千〜数万のエージェントを生成
- 社会進化シミュレーション — エージェント同士が自由に相互作用し、社会的進化を遂げる
- 変数注入と予測 — ユーザーが動的に変数を注入し、未来がどう展開するかの精密なシミュレーションを実行
想定される活用シナリオ
- 金融意思決定支援 — 市場動向の予測と投資判断
- 政策・世論予測 — 政策変更がもたらす社会的影響の分析
- PR 危機シミュレーション — 企業の危機管理対応の事前検証
- マーケティング戦略テスト — キャンペーン効果の事前予測
- ストーリー・フィクション推演 — 物語の展開シミュレーション
- 学術研究支援 — 社会科学的仮説の検証
Vibe Coding で10日間
注目すべきは、MiroFish が Claude Code などの AI コーディングツールを活用した「Vibe Coding」で開発されたという点です。Vibe Coding とは、AI エージェントと対話しながら直感的にコードを生成していく開発手法で、従来の開発と比較して大幅な時間短縮が可能です。
大学4年生が卒業研究の一環として10日間で開発し、GitHub Trending 1位と約6.9億円の投資を獲得したという事実は、AI ツールによる開発の可能性を示す象徴的な事例と言えます。
投資の背景
盛大グループ(Shanda Group)の創業者である陳天橋氏は、MiroFish のデモを見た後、24時間以内にシードラウンドとして3,000万元の投資を即決したと報じられています。AI エージェント分野への注目度の高さと、群体知能(Swarm Intelligence)アプローチの将来性を評価した判断と考えられます。
使用している AI モデルと技術スタック
MiroFish は独自のモデルを訓練しているわけではなく、既存の LLM API をマルチエージェントの「頭脳」として利用し、群体知能シミュレーションのオーケストレーション層を提供しています。
LLM バックエンド
OpenAI SDK 互換の任意の LLM API をサポートする設計です。デフォルトでは Alibaba Cloud の Qwen-plus(通義千問)が推奨されています。
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LLM_BASE_URL と LLM_MODEL_NAME を変更するだけで、OpenAI GPT シリーズや DeepSeek など他のモデルに切り替え可能です。
エージェント記憶基盤
各エージェントの人格・長期記憶・行動ログの保持には Zep Cloud を使用しています。無料枠でも簡単な利用には十分とのことです。
Zep は AI エージェント向けの長期記憶プラットフォームです。内部では Graphiti という時間軸を考慮したナレッジグラフエンジンを持ち、会話データやビジネスデータから事実(Fact)を自動抽出してグラフに蓄積します。新しい情報が入ると古い事実を無効化し、変化の履歴を保持するため、エージェントは「時間とともに変わるユーザーの状態」を推論できます。MiroFish では、数千のエージェントそれぞれが Zep を通じて独自の記憶を持ち、過去の相互作用を踏まえた行動を取ることで、よりリアルな社会シミュレーションを実現しています。
シミュレーションエンジン
シミュレーション部分は CAMEL-AI チームが開発した OASIS (Open Agent Social Interaction Simulations) をベースにしています。
OASIS は、最大100万エージェント規模のソーシャルメディアシミュレーションを実現するオープンソースプラットフォームです。内部は Environment Server(動的なソーシャルネットワークと投稿情報の管理)、RecSys(興味ベース・ホットスコアベースのレコメンデーション)、Time Engine(時間進行の制御と加速)、Agent Module(LLM ベースのエージェント制御)の4つのモジュールで構成されています。エージェントはフォロー・コメント・リポストなど21種類のアクションを実行でき、実際のソーシャルメディアに近い多面的なインタラクションが可能です。MiroFish はこの OASIS の基盤を活用し、ソーシャルメディアに限らず金融・政策・フィクションなど幅広い領域の未来予測に応用しています。
エージェントは都度生成される
MiroFish のエージェントは、事前に人格を育てておく方式ではなく、シミュレーションごとにシード素材から都度生成されます。具体的な流れは以下の通りです。
- シード投入 — ユーザーがニュース・政策文書・小説などの素材をアップロード
- GraphRAG 構築 — 素材からエンティティ・関係性・時系列の事実を抽出し、Zep Cloud 上にナレッジグラフを構築
- ペルソナ自動生成 — グラフに基づいて数千のエージェントプロファイル(人格・行動ルール・初期記憶)を自動生成
- シミュレーション実行 — OASIS 上でエージェントが相互作用し、進行中は Zep に記憶が蓄積・更新される
- レポート生成 — 終了後に予測レポートを出力
Zep の長期記憶が活躍するのは、1回のシミュレーション内での時間経過においてです。シミュレーションが数十〜数百ラウンド進む中で、各エージェントが過去の行動や会話を記憶し、それを踏まえて次の行動を決定します。「自身の環境で必要な人数の人格を日々育てる」という方式は興味深い発想ですが、現在の MiroFish のアーキテクチャでは採用されていません。
GitHub リポジトリ
- リポジトリ: 666ghj/MiroFish
- Star 数: 約 11,100+(2026年3月10日時点、急増中)
- 説明: A Simple and Universal Swarm Intelligence Engine, Predicting Anything
まとめ
MiroFish は、AI エージェント技術の進化と Vibe Coding による開発生産性の向上が重なった象徴的なプロジェクトです。数千のエージェントが相互作用して未来をシミュレートするという発想は、従来のデータ分析や経験則による判断を超える新しいアプローチとして注目に値します。
AI エージェントの世界は、学生による OSS 開発から億単位の投資まで、とんでもないスピードで進んでいます。