Anthropic CEOが「ClaudeはSaaSの専門領域を代替できる」と発言したことを引き金に、SaaS株の暴落も重なって「SaaS is Dead」論が再燃している。マネーフォワードの武田氏がこの話題について見解を述べており、総じて同意できる内容だった。結論としては「全部が死ぬわけではなく、AIに代替される層と、人間や専門家でなければ担えない層に分かれる」というものだ。

なぜ今この話題なのか

この手の議論は以前から繰り返されてきたが、今回が特に大きく取り沙汰されている背景にはAIの急速な進化がある。Anthropicの年間収益はClaude Codeのコーディングエージェントだけで2025年末に10億ドルを超え、2026年2月には25億ドルに倍増するなど、AIレイヤーの成長は加速している。

SaaSがDeadであるという根拠

AIレイヤー(チップ・基盤・LLM)の成長率が桁違いに高い一方、その上に乗っかるアプリケーション層=SaaSの売上成長率は相対的に見劣りしている。リテラシーの高いユーザーがLLMで自前のツールを作り始めており、「お金を払ってSaaSを使う価値」を自製できてしまうケースも出てきている。

SaaSがDeadではないという根拠

武田氏がマクロミル時代に自社でSalesforceの代替システムを内製したケースがまさにその典型だ。当初は優秀なシステムだったものの、法令改正・技術的負債・セキュリティ対応などの積み重ねで次第に維持コストが膨らみ、結局後任体制でSalesforceを導入することになった。

特にバックオフィス系SaaS(会計・人事など)は法令改正への追従が不可欠で、一円でも間違えれば法律違反になるリスクを抱える。AIで作れたとしても「長期的にそれを誰が維持するか」という問題は残り続ける。

また日本市場特有の問題として、クラウド会計ですら13年かけてもオンプレミス系との勢力図が逆転していない現実がある。AIがさらにその上に乗ってくる変化を、多くの企業がキャッチアップしきれるかは相当懐疑的だという見立てだ。

二層モデルによる整理:SOEとSOR

武田氏はSaaSを二層に分けて考えることが有効だとしている。

System of Engagement(SOE)— Deadになりうる層

人間が使いやすいUIを提供する層。AIエージェントが直接操作するようになれば、人間向けのUIそのものが不要になっていく。この層はDeadになりうる。

System of Record(SOR)— 当面変わらない層

堅牢なデータベースとして記録を保持する層。法令対応・セキュリティ・データ信頼性が問われる領域であり、AIが代替するのは長期的には起こりうるとしても、当面は変わらない。

SaaSのヘッドレス化

マネーフォワードが「SaaSのヘッドレス化」と表現しているのもこの文脈だ。人間が画面を操作するのではなく、AIがMCP(Model Context Protocol)経由でSaaSを操作する形に移行していくという見立てである。

実際にマネーフォワードは2025年10月に『マネーフォワード クラウド会計』のMCPサーバーβ版を提供開始し、AIエージェントから仕訳入力やレポート作成などの会計業務を実行できるようにしている。

さらに2025年11月には初のAIネイティブプロダクト『マネーフォワード AI確定申告』β版を提供開始。「どうせ代替されるなら自分たちで最適なものを作る」というスタンスで先手を打っている。

まとめ

「SaaS is Dead」は単純な二項対立ではない。UIを提供するEngagement層はAIエージェントに代替されうるが、法令対応やデータの信頼性を担保するRecord層は簡単には置き換わらない。重要なのは、この変化に対してSaaS企業自身がどう適応するかだ。マネーフォワードのように「ヘッドレスSaaS」への転換を自ら進める企業が、次の時代の勝者になるのかもしれない。