S_mart(エスマート)は、デジタルディスプレイに実物大の商品棚を再現し、在庫を持たずにサテライト店舗を展開できるリテール DX サービスだ。月額 10,000 円から利用でき、買物困難者対策や商圏拡大に活用されている。この記事では、S_mart の仕組み・活用パターン・料金体系を整理し、導入を検討する際のポイントを解説する。

S_mart とは

S_mart は、デジタルディスプレイで実店舗の売場と商品棚を「実物大」で再現するリテール DX ソリューションである。再現した売場をサテライト店舗として各地に展開できる。開発元のダン:サイエンス株式会社が 2021 年 3 月の「リテールテック JAPAN 2021」でプロトタイプを発表した。現在は int mart design 株式会社が運営・提供を担っている。

コンセプトは 「ご近所デジタルディスプレイ商店」。実店舗と EC の利点を組み合わせた新しい購買体験を目指している。

解決する課題

日本では約 700 万人(農林水産省推計)の買物困難者が存在する。従来の対策には以下のような限界がある。

対策課題
ネットスーパー商品サイズの実感が難しい、検索型 UI で「売場を回る」体験がない
移動販売時間・品揃えに制限がある、運行コストが高い
キオスク・マイクロスーパー1,000〜3,000 SKU に限定される、在庫リスクがある

S_mart はこれらの課題に対して、品揃えに上限がなく、受注後に商品を手配するため在庫を持たないというアプローチで解決を図っている。

システム構成

S_mart は以下の 4 つのコンポーネントで構成される。

S_display(表示アプリ)

エンドユーザーが操作するタッチパネル向けアプリケーション。商品を実物大で表示し、陳列棚を再現する。Web ショッピングの「検索型」ではなく「陳列・比較型」の買い物体験を提供する点が特徴である。

S_manager(管理画面)

クラウド型の管理ソフトウェア。店舗担当者がいつでも・どこからでも商品や売場のレイアウトを登録・変更できる。

S_device(デバイスセット)

75 型・22 型などのタッチパネルディスプレイを含むハードウェアセット。設置場所に合わせたサイズ選択が可能。

MDB(商品データベース)

ナショナルブランド食品の画像・仕様情報を提供するデータベース(有料オプション)。商品登録の手間を削減できる。

活用パターン

店内設置型

既存店舗の店内にディスプレイを設置するパターン。

  • 品揃え拡大: 棚に並べきれない商品をデジタルで陳列
  • 陳列労力の削減: 物理的な商品入れ替え作業が不要
  • 詳細情報の伝達: 商品説明やアレルギー情報などをデジタルで表示

サテライト型

実店舗の周辺地区にデジタルディスプレイを設置して「出張店舗」を展開するパターン。

  • 買物困難者対策: 高齢者施設や公共施設などに設置
  • 商圏拡大: 実店舗から離れたエリアもカバー
  • 配達効率の向上: サテライト拠点単位での配送が可能

料金体系

項目料金
月額利用料10,000 円(税別)
契約期間原則 6 ヶ月
S_manager(管理画面)無料
導入支援・運用支援別途見積もり
ハードウェアセット別途費用
MDB(商品 DB)有料オプション

月額 10,000 円のソフトウェア利用料は比較的手頃である。ただし、ハードウェア(大型タッチパネルディスプレイ)や導入支援の費用が別途必要な点に留意したい。

ターゲットユーザー

地方自治体

  • 買物困難者対策事業
  • 特産品・ふるさと納税の PR
  • 地域活性化施策
  • 防災・減災対策

メーカー・企業

  • EC 商品の販路拡大・新規顧客獲得
  • 新商品のテストマーケティング
  • イベント・展示会での簡易販売

評価ポイント

強み

  • 実物大表示: 商品サイズを実感できる点は、食品や日用品の購入判断において大きな利点
  • 在庫レス運営: 受注後手配のため、廃棄ロスや在庫管理コストが発生しない
  • 品揃え無制限: 物理的な棚の制約がないため、理論上は品揃えに上限がない
  • クラウド管理: 遠隔から売場を自由に構成変更できる柔軟性
  • 月額コストの低さ: ソフトウェア利用料が月額 10,000 円と導入しやすい

考慮点

  • ハードウェアの初期投資: 大型タッチパネルの購入・設置に相応のコストがかかる
  • 決済システム非統合(意図的な設計): S_mart は決済機能を持たず、注文情報の処理のみを担う。これは制約ではなく、以下の理由による合理的な設計判断と考えられる。第一に、決済を自社で扱うと資金決済法上の「資金移動業者」登録(供託金 1,000 万円〜)や PCI DSS 準拠(導入 1,000 万円以上、維持に月 100 万円以上)が必要になり、サービスの価格優位性が失われる。第二に、導入先のスーパーマーケット等は既に POS・決済システムを運用しており、そこに注文情報を流す方が導入障壁が低い。第三に、「商品訴求・注文」と「決済」を分離することで責任分界が明確になる。なお、利用者の大半がスマートフォンを所持している現状を踏まえれば、S_display での商品選択後にスマホへ QR コード決済や EC 決済画面のリンクを送る運用も現実的な選択肢である
  • 認知度: 2021 年発表の比較的新しいサービスであり、大規模な導入事例の公開情報は限られる
  • UI/UX の成熟度: 高齢者を主要ターゲットとする場合、操作性の設計が成否を分ける

まとめ

S_mart は、実店舗と EC の中間に位置するユニークなポジショニングのサービスだ。買物困難者対策という社会課題に対し、「実物大の商品表示」と「在庫レス運営」で実用的なソリューションを提供している。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」で紹介された実績もあり、リテールテック分野で注目を集めている。

月額利用料の手頃さは魅力だが、ハードウェアの初期投資は必要になる。決済機能を意図的に外し、既存の小売インフラに委ねる設計は、規制コストの回避と導入障壁の低減に寄与している。自治体の買物支援事業やスーパーマーケットの商圏拡大施策と組み合わせることで、投資対効果を高められるだろう。

関連リンク