grill-me とは何か
mattpocock/skills は、Total TypeScript で知られる Matt Pocock が自分の ~/.claude/skills/ から実際に使っている 23 本のスキルをそのまま公開したリポジトリだ。「教材向けに整えた」ではなく「本番運用している実物」というのが特徴で、X(旧 Twitter)でも注目を集めている。
その中でも最も人気が高いのが /grill-me だ。スキルの定義は英文 4 文だけ。しかしこの短さが本質で、「コードを 1 行も書く前に AI があなたを徹底的に詰める」という仕組みを実現する。リポジトリには engineering・productivity・misc の 3 カテゴリにわたる 18 本以上のスキルが収録されている。
実際のスキル定義(skills/productivity/grill-me/SKILL.md)は次のとおり:
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なぜ「詰め」が必要なのか
生成 AI にコードを書かせる際の最大の落とし穴は、曖昧なまま走り出すことだ。「なんとなくこういうのを作りたい」で投げると、それらしいコードは出てくるが、後から要件とのズレが発覚して作り直しになる。
Matt Pocock 自身も README でこう述べている:
The most common failure mode in software development is misalignment. You think the dev knows what you want. Then you see what they’ve built - and you realize it didn’t understand you at all.
/grill-me はこのミスアライメントを事前に解消するためのスキルだ。AI が「答えを出す役」ではなく「質問をする役」に徹することで、人間が無意識に回避していた判断を引きずり出す。
仕組みのポイント
深さ優先の質問戦略
計画を決定木として捉え、1 つの枝を掘り切ってから次に進む。「15 個の質問を一気に投げて答えられない」という典型的な失敗パターンを回避している。常に 1 問ずつ聞いてくるので、会話が迷子にならない。
Codebase-First 原則
「コードベースを調べれば分かる質問は自分で調べてから聞く」という原則が組み込まれている。
If a question can be answered by exploring the codebase, explore the codebase instead.
つまり「モジュール X はキャッシュ処理していますか?」とは聞かない。モジュール X を自分で読んだ上で「TTL キャッシュが 5 分で切れる設計でしたが、追加するキャッシュ層とどう整合させますか?」と鋭く聞いてくる。ユーザーの時間を奪わない設計だ。
各質問に推奨回答を添える
For each question, provide your recommended answer.
ただ詰めるだけでなく、AI 自身が「こう思う」という推奨案をセットで出してくる。これにより会話が「詰問」ではなく「共同設計」に変わる。
7 種類の質問パターン
grill-me を試したユーザーの分析によると、AI が使う質問の切り口はシニアエンジニアの設計レビューと重なる 7 種類に分類できる:
| 観点 | 例 |
|---|---|
| 実現可能性 | この制約下で本当に動くのか |
| 依存関係 | 先に解くべき前提は何か |
| エッジケース | こうなったらどうする |
| 代替案 | なぜこれで、なぜ A ではないのか |
| スコープ | 意図的に後回しにしているのか |
| 順序 | 何から始めるべきか |
| 失敗モード | 壊れた時の回復はどうするか |
関連スキル:grill-with-docs
エンジニアリング向けには /grill-with-docs も用意されている。/grill-me の機能に加えて、プロジェクトの共通言語ドキュメント(CONTEXT.md)や ADR(Architecture Decision Records)の更新も同時に行う。
Matt Pocock は「共通言語を持つことで、変数名・ファイル名の一貫性が上がり、エージェントが思考に使うトークン数も減る」と説いており、/grill-with-docs はそのベストプラクティスを自動化したものだ。
インストール方法
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インタラクティブなセレクターでほしいスキルを選び、Claude Code などのエージェントにインストールできる。/setup-matt-pocock-skills を最初に実行してリポジトリごとの設定(Issue トラッカー連携など)を済ませておくと、他のスキルも快適に動く。
コーディングより「問い」の設計が差になる時代
/grill-me が示唆するのは、AI 時代のエンジニアに求められるスキルの変化だ。コードを書く作業自体はコモディティ化しつつある。差がつくのは「何を作るかの解像度」であり、設計の詰め方、問いの立て方だ。
このアプローチは開発以外にも転用できる。新規事業の企画、PRD の作成、採用要件の定義、組織設計——いずれも「誰も深く問い直してくれないまま進む」から失敗する。AI が徹底的に詰めてくれる文化が広がれば、意思決定の質は底上げされる。
4 文のスキル定義でここまでできるという事実は、プロンプト設計においても示唆が深い。「長ければ良い」ではなく、「適切な言葉を適切なタイミングで使わせる」設計が本質なのだ。