JAFCO のベンチャーキャピタリスト・堀ノ内 友馬氏が、AI時代における市場選択の新しい基準を提示した。一見矛盾して見える2つのトレンドが同時に成立できる市場こそが、戦うべきフィールドだ。この視点は、AI時代に市場を選ぶ起業家・事業開発担当者にとって実践的なフレームワークとなる。

JAFCO 堀ノ内氏のツイート:市場選択の新基準

顧客側では「丸ごと任せたい」業務が顕在化し続け、事業者側では内製AIでオペレーションが軽くなり続ける。一見相反するようなこの2つが同時に成立する可能性のある市場かどうかが、戦う市場を選ぶ際の基準の一つとして注目しています。

堀ノ内 友馬 | JAFCO (@horinouchiyuma)

2つのトレンドとは

1. 顧客側:「丸ごと任せたい」ニーズの顕在化

AI の普及によって、部分的な自動化ではなく業務プロセスごと外部に委託したいというニーズが急増している。従来の選択肢は「自社でやるか、ツールを導入して効率化するか」の2択だった。今は「成果だけ受け取れればいい」という発想で、業務を丸ごとアウトソースするモデルが成立しやすくなっている。

たとえば次の業務が該当する。

  • 経理・財務処理の完全アウトソース(仕訳から申告まで)
  • マーケティングコンテンツの一括生成・配信
  • カスタマーサポートのAIエージェント代行
  • 採用スクリーニングから面接日程調整まで

このような「丸ごと委託」が成り立つ背景には、AIが定型業務の判断を代替できるようになり、人間が介在しなくても品質が担保される場面が増えてきたことがある。

2. 事業者側:内製AIによる運営コストの圧縮

同じ市場において、サービス提供側(事業者)も AI を活用してオペレーションを軽量化できる。エージェント・LLM ワークフロー・RAG などを内製化することで、従来は人手が必要だった業務を大幅に自動化できる。

  • スタッフ数を増やさずにスケールできる
  • 人件費の変動費化が進む
  • 対応品質が均一化し、スーパーバイザーの役割が縮小する

なぜ「矛盾しているように見える」のか

表面上、この2つのトレンドは逆方向に見える:

視点方向性
顧客側業務を外に出す(外部依存を増やす)
事業者側業務を内側で効率化(内部能力を強化する)

顧客が「外出し」を増やす一方で、事業者は「内製化」を進める。一般的な経済学の常識では、外部委託が増えると受託側のコストも増え、スケール時には人員増加が避けられなかった。これが従来の構造だ。

ところが AI 時代では、内製AI によって受託側の限界費用が抑えられるため、顧客の委託量が増えても事業者のオペレーションが比例的に重くなりにくい。

VCが注目する「同時成立」市場の条件

堀ノ内氏の視点をもとに整理すると、以下の条件が揃う市場が狙い目になる:

  1. 顧客の意思決定コストが高い領域 — 複雑な判断や知識が必要な業務ほど「丸ごと任せたい」ニーズが強い
  2. 繰り返し・定型化可能な部分が多い — AIによる内製自動化が効きやすい
  3. 成果の可視化がしやすい — アウトカム報酬型の料金設計が可能で、顧客側の導入障壁が下がる
  4. 規制・信頼が重要な領域 — 参入障壁が自然に形成され、一度信頼を得ると解約率が低い

従来の SaaS vs. この新しいモデル

従来の SaaS ツール提供では、使い方を覚える・運用する負担は顧客側にあった。顧客は「ツールを買う」だけで、活用できるかどうかは自社の力量次第だった。

一方、「丸ごと委託 × 内製AI」モデルでは、成果責任が事業者側にある。顧客視点では SLA や成果物だけを見ればよく、事業者は AI を使って効率的に成果を届けられる。

これは「AIエージェント SaaS」というより「AIを使った受託サービス業の再発明」に近い。

まとめ

AI 時代における市場選択の新しいレンズ:

  • 「顧客が丸ごと委託したいか?」
  • 「事業者が内製AI で軽く運営できるか?」

この2つが同時にYESになる市場は、スケールしやすく、参入障壁も自然に高まりやすい。起業家・事業開発担当者が市場を選ぶ際に、このフレームワークを市場選択の判断軸の一つとして活用したい。