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Airtable と HubSpot、MA 運営コストはどちらが安いか — Marketing Hub Pro で逆転する損益分岐【2026年8月】

Airtable の料金プランと上限を公式で引き直したあと、当然のように次の疑問が出てきた。

「Airtable の料金を考えたら、HubSpot で運営したほうが結局コスト面でも有利では?」

MA(マーケティングオートメーション)/ CRM をやりたいのであれば、その直感はおおむね正しい。ただし「おおむね」で終わらせると、あとで効いてくる逆転を見落とす。2026 年 8 月時点の公式価格で検証した結果を書いておく。

先に結論を 3 点でまとめる。

Airtable と HubSpot は課金軸が違う — 行数×座席 と マーケティングコンタクト

単価を並べて比べても答えは出ない。課金軸そのものが違うからだ。

AirtableとHubSpotの課金軸の違いを比較した図。Airtableは行数×座席で課金され、持っているだけで課金軸に乗るのに対し、HubSpotは今月接触するマーケティングコンタクトだけが課金対象で、保管するだけの非マーケティングコンタクトは課金されない

コンタクトを 50,000 件持っていて、今月メールを送るのは 3,000 件、という状況を考えるとわかりやすい。HubSpot では残りの 47,000 件は「非マーケティングコンタクト」として課金対象から外れる。実際に接触する 3,000 件ぶんだけが値段に乗る。

一方 Airtable では、50,000 件を持った時点で Free(1,000 件 / base)はもちろん足りず、Team(50,000 件 / base)の上限にも当たる。しかも見るだけ・コメントするだけのメンバーまで座席として課金される(Team は Commenter 以上が課金対象)。

CRM は「持っている件数」と「実際に接触する件数」が大きく乖離する領域なので、この軸の違いがそのままコスト差になる。HubSpot の課金軸のほうが実態に合っている。

Airtable はそもそも MA ツールではない

もうひとつ、単価比較で見落とされがちな点がある。Airtable はデータベースであって、MA ツールではない。

Airtable で MA を運営しようとすると、足りない部分を買い足すことになる。

つまり $20 / 席は「土台の値段」であって「MA の値段」ではない

しかも繋ぎ込む段階で、Airtable 側の制約が効いてくる。Airtable API のレート制限は全プラン共通で base あたり 5 リクエスト / 秒。Free は月間 1,000 コールしかない。数万件のコンタクトを日次で同期する構成では、ここが最初に詰まる。

Airtable の座席代にこれらを合算すると、HubSpot Starter(マーケティングコンタクト 1,000 件込み、$20 / 席・月のリスト価格)より高くつくことは十分にありうる。なお Starter の実売価格は契約形態によって変動し、公式サイト内でも記載が割れているので、見積もり時は営業に確認したほうが早い。

Marketing Hub Professional の壁で逆転する — 初年度 $12,600

ここが、冒頭の直感が崩れるところだ。

HubSpot でナーチャリングのワークフローを組むには Marketing Hub Professional(以下 Pro)が要る。そしてこの価格帯が、Starter からの連続的な延長線上にない。

MAの成熟度別にAirtableとHubSpotの初年度コストを比較した図。リスト管理のみとメール配信開始の段階まではHubSpotが安いが、ナーチャリング自動化のためMarketing Hub Proに上がる段階でHubSpotが12600ドル、Airtableが4800ドルとなり約2.6倍に逆転する

初年度のコストを並べるとこうなる。価格はすべて 2026 年 8 月 15 日時点のもの。

構成内訳初年度合計
Marketing Hub Pro(年契約・3 席込み)$800 × 12 か月 + オンボーディング $3,000(必須)$12,600
Marketing Hub Pro(月契約・3 席込み)$890 × 12 か月 + オンボーディング $3,000$13,680
Airtable Team 20 席(年契約)$20 × 20 名 × 12 か月$4,800

年契約同士で比べると、初年度コストが約 2.6 倍になる。

ここは条件を揃えないと数字が動くので注意したい。Marketing Hub Pro は年契約 $800 / 月、月契約 $890 / 月で、Airtable の $20 / 席も年契約価格(月契約は $24)である。うっかり HubSpot 側だけ月契約レートを拾うと、差が実際より大きく出る。

前提の非対称も明示しておく。この $12,600 は 3 席ぶんの価格で、Airtable 側は 20 席である。席数を揃えるなら Pro に追加 17 席 × $45 / 月(年契約)が乗るので、差はさらに開く。つまりこの比較は HubSpot 側に有利な条件で見てなお 2.6 倍ということになる。

そして見落としやすいのがオンボーディング費用 $3,000 が必須である点だ。月額だけで見積もると初年度に $3,000 の穴が空く。Enterprise ならこれが $7,000 になる。

Pro にはマーケティングコンタクトが 2,000 件含まれるが、これを 1 件でも超えると次のティアに自動で上がる。コンタクト数はコストに直結するので、ここも見積もりに入れておきたい。

いつ Marketing Hub Pro に上がるべきか — リード1,500件が目安

以前 HubSpot Professional にアップグレードするメリットをまとめた。そこで BtoB マーケティングの経験則として「ナーチャリングが効き始めるのは 1,500 リードを超えたあたりから」と書いている。母数が小さいうちはセグメント別のシナリオを回しても統計的なシグナルが取れず、A/B テストも成立しない。

この経験則とコスト構造を重ねると、判断はかなり明快になる。

「HubSpot が安い」のは Free と Starter の話であって、Pro は別の価格帯の製品だと考えたほうがいい。

CRM の形をしていないデータ — カスタムオブジェクトは Enterprise 限定

ここまでは「MA / CRM をやる」前提の話だった。だが実際の業務データは、そればかりではない。

在庫管理、制作進行、コンテンツカレンダー、案件管理、社内の資産台帳。こうしたCRM の形をしていないデータを HubSpot に載せようとすると、カスタムオブジェクトが必要になる。

そして確認した範囲では、HubSpot のカスタムオブジェクトは Enterprise 限定である。Marketing Hub Enterprise は $3,600 / 月から、オンボーディングは $7,000。Professional では標準オブジェクトへのカスタムプロパティ追加や、カスタムアソシエーションラベルで代替するしかない。

代替でどう破綻するかは、案件管理を例にするとわかりやすい。案件は本来「1 つの案件に複数の納品物がぶら下がり、納品物ごとに期日と担当が付く」という構造を持つ。これを標準オブジェクトのカスタムプロパティで表現しようとすると、納品物1_期日納品物2_期日……と列を横に増やしていくことになる。納品物が 5 つある案件が現れた時点で破綻し、「納品物ごとの期日一覧」のようなごく普通のビューも作れない。繰り返し構造をプロパティで表現できないのが根本的な限界で、これはプロパティを増やしても解決しない。

Airtable なら Team の $20 / 席で、案件テーブルと納品物テーブルをリンクさせれば済む。ここは Airtable の圧勝で、無理に HubSpot へ寄せると逆に高くつく。

HubSpot 側にも同じ構造の落とし穴がある

同じ構造の落とし穴が、HubSpot 側にもある。

HubSpot の無料枠は、公式の製品カタログでは「コンタクト 1,000 件まで / ユーザー 2 名まで / メール送信は月 2,000 通(HubSpot のブランディング付き)」となっている。

紛らわしいのは、2,000 という数字がメール送信数であってコンタクト数ではないことだ。両方とも千単位の数字が並ぶので取り違えやすい(実際、筆者は下書きの段階で取り違えた)。

さらにアカウントの作成時期によって枠が違うらしい。2024 年 9 月より前に作成したアカウントは 1,000,000 コンタクトの旧枠のまま、それ以降のアカウントは 1,000 件、という話だ。上限が現在 1,000 件であることは公式カタログで確認できるが、作成時期による差については公式ドキュメントに記載を見つけられなかった。コミュニティのアナウンス由来の情報なので、自分のポータルの設定画面で実際の枠を確認してほしい

つまり「HubSpot 無料枠は 100 万コンタクト」と書かれた古い記事を読んで設計すると、新規に作ったアカウントではまるで違う数字が出てくる。前回の記事で Airtable について書いたのとまったく同じ壊れ方で、これはツールを問わない。同じ確認手順は前回の記事にまとめてある。

実務的な答えは HubSpot と Airtable の役割分担

以上を踏まえると、「どちらか一方に寄せる」という問いの立て方自体があまり筋が良くない。

前回の記事で書いた「軸3. Airtable の API 制限とオートメーション枠」は、まさにこの構成でこそ実用的な論点になる。単体で Airtable を使っているうちは月間コール数に当たらなくても、HubSpot と双方向で同期し始めた瞬間に効いてくる。

まとめ

なお本記事の価格はすべて 2026 年 8 月 15 日時点のものである。読むときには公式で引き直してほしい。



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