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HubSpot のカスタムシグナル — 「買いのサイン」を自然言語で書くと AI が Web を見張ってくれる

HubSpot Japan から「AI を活用した営業活動の効率化」という 4 日連続シリーズの営業メールが届いた。その 1 日目のテーマがカスタムシグナル(Custom Signals)だった。

メールの売り文句は「HubSpot 上で自社にとって重要な変化を定義し、その動きを自動で検知できます」。抽象的で、正直これだけでは何ができるのか分からない。そこで実際の仕様を調べたら、思っていたよりはっきりした機能だった。2026 年 6 月 30 日に Buyer Intent アプリの中でリリースされた、自然言語でバイイングシグナルを定義する機能である。

この記事では、営業メールが省略していた部分 — 従来のシグナルとの違い、設定手順、そして一番気になるクレジット消費と料金プランの要件 — を埋めていく。

営業メールが挙げていた課題

まず、メールが挙げていた「多くの営業組織の悩み」は次の 3 つだった。

そして活用例として挙がっていたのがこの 3 つ。

3 番目が一番この機能の本質を突いている。「自社が狙う特定テーマ」は各社バラバラなので、あらかじめ用意されたシグナルの一覧からは選べない。ここが従来との分かれ目になる。

従来のバイヤーインテントは「一覧から選ぶ」ものだった

HubSpot の Buyer Intent には、以前から標準のシグナル(intent signals)が用意されている。カテゴリはおおむね次のように分かれている。

カテゴリ内容の例
Visitor intent設定した訪問条件に企業が入った/外れた(Visitor intent change)
Research intent自社が指定したトピックを調べている/調査の強度が変わった
CRM signals予算への言及(Budget mention)、商談時期の示唆(Deal timing)
News signals資金調達、技術投資、拠点拡大、経営層の採用、製品ローンチ、M&A、レイオフなど十数種
Contact signalsメールのバウンス、担当者の入社(Job started)/退職(Job ended)

つまり「価格ページを見た」「競合を見た」「資金調達した」といったあらかじめ定義された枠から選ぶ方式だった。汎用的には便利だが、業種特有の買いのサインは表現できない。

セキュリティ企業が知りたいのは「CISO の求人が出た瞬間」であり、人材紹介会社が知りたいのは「工場の新設が発表された瞬間」だ。こうした条件は、どの標準カテゴリにも当てはまらない。

カスタムシグナルは「文章で書く」

カスタムシグナルは、この枠を外した。買いの瞬間を 1〜2 文の自然文で書くと、HubSpot の AI が Web やデータソースを見張り、条件に合致した企業を挙げてくる。

カスタムシグナルの処理の流れ。自然言語で定義を書き、AI が Web を継続監視し、プレビューで引用元を確認してから有効化すると、シグナルイベントがセグメント・ワークフロー・リードスコアリング・レポートの 4 つの面で使えるようになることを示した図

重要なのは、boolean 検索式もプロンプト設計も要らない点だ。書き方はたとえばこうなる。

グリーンテック領域のスタートアップでシリーズ A の資金調達を発表した企業
新しく VP of Operations を採用し、その発表の中でサプライチェーン最適化に言及している企業
K-12(初等中等教育)向けの RFP(提案依頼書)を公示した教育機関

そして、ここが実用上ありがたいところだが、検知結果には必ず引用元(source reference)が付く。営業担当がアプローチする前に「なぜこの企業が引っかかったのか」を根拠付きで確認できる。インテントデータでよくある「誤検知のまま架電してしまう」事故を、構造的に減らしにいっている。

設定手順

UI の操作自体は 6 ステップで終わる。

  1. HubSpot ポータルで Buyer Intent アプリを開く
  2. Signals タブに移動する
  3. My Signals を開く。既存のシグナル一覧と、カスタムシグナルの作成メニューがここにある
  4. AI が提案してくるシグナル候補をざっと見る。HubSpot が自社プロフィールと ICP を読んで出してくるので、たたき台として使ってもいいし、無視してもいい
  5. 自然文で定義を書き、プレビューを実行する。マッチした企業のリストが出るので、広すぎ/狭すぎを判定して定義文を直す
  6. 納得したら Activate する

4 と 5 が実務上のポイントになる。プレビューは有効化前に走るので、定義文の試行錯誤はノーリスクでできる。逆にここを飛ばして有効化すると、広すぎるシグナルがワークフローを叩き始めて、営業チームに大量のノイズを流すことになる。

定義したシグナルの使い道

カスタムシグナルの設計で効いているのは、シグナルが Buyer Intent アプリの中に閉じていないことだ。定義したシグナルは CRM 側の一級オブジェクトとして扱われ、次の 4 か所で使える。

セグメント — セグメント作成時の絞り込み条件として Company Signals イベントを指定できる。「従業員 200 名以上の製造業」という静的な条件に、「直近 30 日にシグナルが出た」という動的な条件を重ねられる。この 2 つが重なった相手への連絡は、コールドコールとは別の会話になる。

ワークフローCompany signal events を登録トリガーに使う。担当者へのタスク作成、社内通知、プロパティー更新、シークエンス登録を自動化できる。トリガーが「3 週間前のフォーム送信」ではなく「買いの瞬間そのもの」になる点が、従来のワークフローとの違いだ。

リードスコアリング — 企業レベルのスコアにシグナルを加点できる。多くの HubSpot ポータルのスコアリングモデルは、ページ閲覧・メール開封・フォーム送信といった自社ポータル内で起きたことだけで組まれている。カスタムシグナルは、そこに外の世界の出来事を持ち込む。

レポート — どのシグナルが商談・受注につながり、どれがノイズだったかを測れる。シグナルの定義文を育てていくためのフィードバックループがここで閉じる。

なお、シグナルの検知結果は企業レコードのアクティビティータイムラインにイベントとして残り、Recent intent signals という企業プロパティーからも参照できる。ただしこのプロパティーが保持するのは直近 30 日分だけなので、長期の分析をしたいならレポート側で受けるか、ワークフローで別プロパティーに退避させておく必要がある。

料金とクレジット — ここが一番の注意点

営業メールには一切書かれていなかったが、実務ではここが判断の分かれ目になる。

カスタムシグナルの作成自体は、全 Hub・全ティアでポータルのクレジットを使って利用できるとされている。お金がかかるのは、シグナルの本数ではなく監視対象の企業のほうだ。

ここは公式ドキュメント間で書きぶりが揃っていないので注意してほしい。製品ページは上記のとおり「監視は月次のリカーリング課金」と明記している一方、ナレッジベースの記事は「クレジットを消費するのは企業を追加したときで、その企業のインテントシグナルを自動でトラッキングすること自体には消費しない」「自動追加とインテントシグナルのトラッキングを有効にした場合、消費は 10 クレジットだけ」と書いている。

後者は「追加とトラッキング有効化で二重課金しない」という意味に読める記述で、月次で発生するかどうかを否定する文脈ではない。実際の単価と課金周期は HubSpot Product & Services Catalog が正なので、予算を組む前にそこと自社ポータルのクレジット残高を必ず確認したほうがいい。監視企業数 × 月次、という前提で見積もっておくのが安全側だ。

Buyer Intent 自体は Marketing / Sales / Service / Data / Content Hub の Starter 以上、Revenue Hub の Professional 以上で使える。ただしワークフローとリードスコアリングに繋ぐところは Professional / Enterprise が前提になるので、カスタムシグナルの価値を出しきるには実質 Professional 以上という理解でいいと思う。Professional で何が開くかはHubSpot Professional にアップグレードするメリットを 6 Hub 別に整理にまとめてある。

権限面では、企業をトラッキング対象にするのに Data Enrichment 権限、設定を触るのに Buyer Intent の編集権限が必要になる。

技術者として気をつけたいところ

API での操作は現時点で見つからない。 Buyer Intent やカスタムシグナルを外部から作成・取得する専用の公開 API は、公式の開発者ドキュメントには見当たらなかった。自動化の経路はワークフロー(Company signal events トリガー)が前提と考えるのが安全だ。シグナル発火をきっかけに外部システムを叩きたい場合は、ワークフローから Webhook を打つ構成になる。

「AI が Web を監視する」の精度は自分で測る必要がある。 プレビューと引用元という検証の仕組みは用意されているが、それを使うかどうかは運用側の規律にかかっている。定義文を書いて有効化して終わり、にすると誤検知がそのまま営業アクションに流れる。レポートで「シグナル → 商談化率」を見て定義文を刈り込む運用まで含めて、はじめて機能する。

クレジットの消費モデルを先に理解しておく。 「シグナルを増やす」より「監視企業を増やす」ほうがコストに直結し、しかもそれが月次で乗ってくる。ICP を絞ってから対象企業を追加する順序を守らないと、クレジットを溶かしてから精度の話を始めることになる。監視対象は「増やす」だけでなく「棚卸しして減らす」運用も要る。

まとめ

営業メールにあった「今の時代の SFA はここまでできるんだな」という煽り文句は、この機能に関しては誇張ではなかった。従来「LinkedIn のアラート、Google ニュースの購読、サードパーティのインテントツール、担当者の手作業リサーチ」をつなぎ合わせてやっていたことを、CRM の中の 1 つの定義文に寄せられる。

一方で、営業メールが触れていなかった条件は 3 つある。

  1. 監視対象の企業を増やすたびにクレジットを消費し、しかも監視の継続自体が月次のリカーリング課金である
  2. CRM に企業を追加するには Starter 以上、ワークフロー/スコアリングまで繋ぐなら実質 Professional 以上
  3. 精度はプレビューとレポートで自分で測って詰める前提の機能である

逆に言えば、自社の買いのサインが公開情報として観測できる形をしている業種(公示される RFP、規制当局への届出、特定職種の求人、資金調達の発表など)では、投資対効果がはっきり出やすい。ニッチな ICP を持っていて、既にスタンドアロンのインテントツールに課金しているなら、その支出を見直す材料になる。

営業とマーケの境界でこういうデータ配管を組む役割についてはGTMエンジニア — AI時代に生まれた「1人で3チーム分」の新職種でも触れている。カスタムシグナルは、まさにその職種が扱う道具の 1 つだと思う。

参考リンク



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