本文へスキップ
hdknr blog

ループエンジニアリング

エージェントを叩く役を人間から機械へ移す設計手法。6つの構成部品、作る前の4条件テスト、撤退ラインと3つの罠を整理する

概要

エージェントを叩く役を人間から機械へ移す設計手法。Addy Osmani の定義が端的である。

Loop engineering is replacing yourself as the person who prompts the agent. You design the system that does it instead.

人間はゴールだけを決め、発見 → 計画 → 実行 → 検証 → 修正のサイクルはシステムが回す。AIエージェント設計の5レイヤー の第4層にあたる。

ハーネスとの違い

混同されやすいので整理する。ハーネスはループの前提であり、ループがハーネスを置き換えるわけではない。

観点ハーネスエンジニアリングループエンジニアリング
対象単一エージェント複数エージェント+スケジューラ
レイヤー実行環境レイヤー制御プレーンレイヤー
比喩1台の機械にレールと安全柵を設置工場全体を自動スケジューリングする生産ライン
起動方法人間がプロンプトで起動時刻・イベント・条件で自律起動
終了判断エージェントが完了を宣言検証ゲートが「合格」を判定

2つの軸

スケール:シングル ⇄ フリート

フリートは「AI が勝手にやってくれる」と語られがちだが、実態は誰が何を見るかの設計が全部で、そこは人間の仕事である。

裁量:オープン ⇄ クローズド

始めるならクローズドループ一択。 品質ゲートなしでオープンに回すと、速くて安いが質の低い成果物が量産される。

6つの構成部品

部品効く段役割
オートメーションDISCOVERループを起動するトリガー(ハートビート)。Claude Code なら /loop(定期再実行)と /goal(条件成立まで継続)
ワークツリーEXECUTEgit worktree で各エージェントに独立した作業ディレクトリを与え、並列実行のファイル衝突を防ぐ
スキルDISCOVERSKILL.md に規約・ビルド手順・禁止事項を書き、開始時点でプロジェクトを知っている状態にする
コネクタ/プラグインEXECUTEMCP 経由でイシュートラッカー・DB・Slack へ手を伸ばす。「直し方はこちら」ではなく PR を開くところまで自走させる
サブエージェントVERIFY作成者と検証者を分ける。書いたモデルは自分の欠陥を見落とす
メモリ/ステートファイル全段実行をまたいで「試したこと・通ったこと・未解決のこと」を持ち越す。モデルは忘れる、リポジトリは忘れない

作る前の4条件テスト

ループは4条件が揃ったときだけコストに見合う。1つでも欠ければリターンを上回るコストがかかる。

  1. タスクが繰り返される — セットアップコストを多数の実行に分散できるか。週次未満なら設定する意味がない
  2. 検証が自動化されている — テスト・型チェック・リンター・ビルド。自動ゲートがなければ結局すべての差分を人間が読む
  3. トークン予算が無駄を吸収できる — リトライと探索で消費する
  4. エージェントにシニアエンジニアの道具がある — ログ、再現環境、コードを実行して壊れ方を見る能力

今はスキップすべきケース

最小実行可能ループと撤退ライン

4条件を通過したら、派手な構成の前に動く最小のループを作る。部品は4つ、スワームは不要。

1つのオートメーション/1つのスキル/1つのステートファイル/1つのゲート。

順序が重要:まず手動実行を1回信頼できるものにする → スキルにする → ループに包む → スケジュールする。先へ進みすぎると、誰も理解しないシステムに金を払うことになる。

撤退ラインの指標は cost per accepted change(受け入れられた変更あたりのコスト)。消費トークン数でも試行タスク数でもない。受け入れ率が50%を下回ったら、ループが節約するはずだったレビュー作業を自分でやっていることになる。

3つの罠

ループには「スムーズに回ること自体が危険」というパラドックスがある。

罠1:検証の死角

無人で動くので、無人のままミスを犯す。「完了」は自己申告であって証明ではない。 証拠を出さないループは自信過剰な乱数発生機に等しい。

静かに失敗する典型がラルフ・ウィグムループ(Geoffrey Huntley が記録・命名)——実際に検証する仕組みがないまま同じことを延々と繰り返す状態。

罠2:Comprehension Debt(理解の負債)

ループが滑らかなほど、生成させたコードから疎遠になる。デリバリーが加速すると同時に乖離も加速する。技術的負債とは別種の負債である。

罠3:Cognitive Surrender(認知的降伏)

最も危険。判断基準を持つことをやめ、ループが出したものをすべて受け入れてしまう。「AI がそう言うので」が口癖になったら赤信号。

判断力を持ちながらやるなら、ループの設計は解毒剤になる。思考から逃げるために使うなら、それは促進剤になる。同じ行動でも、結果は正反対になる。 — Addy Osmani

セキュリティ税

無人ループは攻撃面を広げる。スキル経由のプロンプトインジェクション、ログに残るクレデンシャル、権限スコープの肥大化(permission scope creep)が主な論点である。公開スキル 17,022 件のうち 520 件でクレデンシャル漏洩が観測された、という調査もある。

ループを機能させる条件は「合格条件の定義」

手順を並べただけではループは機能しない。決め手になるのは何をもって合格とするかを定義することで、判定者を 2 種類に分けて置く。

そして「回すほど賢くなる」を成立させるのは結果を SKILL.md に書き戻したときだけである。書き戻しがなければ毎回ゼロから同じ工程を繰り返すだけになる。しかも蓄積すべきは勝ちパターンより却下理由のほうが効く。

コスト面では全周を高いモデルで回す必要はない。構成設計だけ高いモデル、反復は安いモデルという配分が素直で、差は本数に比例して開く。

関連ページ

ソース記事