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VE(バリューエンジニアリング/価値工学)とは — 価値=機能÷コストで考える改善手法と設計VE・入札時VE・契約後VE

「もっと安く、でも品質は落とさずに」という要求は、どの業界でも日常的に飛んでくる。多くの場合これは矛盾した無理難題として扱われるが、この矛盾を正面から手順化した管理技術がある。

VE(Value Engineering:バリューエンジニアリング、日本語では価値工学)とは、価値を「機能 ÷ コスト」として捉え、機能を落とさずに価値を高めるための体系化された手法である。 核心は、コストを削るのではなく機能とコストの比を上げるという発想の切り替えにある。1947 年に生まれた古い手法だが、公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会(SJVE)の定義はいまでも過不足がない。

VE(Value Engineering)とは、製品やサービスの「価値」を、それが果たすべき「機能」とそのためにかける「コスト」との関係で把握し、システム化された手順によって「価値」の向上をはかる手法です。 — 公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会「VEとは」

この記事では、VE の定義と原則、実施手順を整理したうえで、建設業でどう制度化されているか(設計VE/入札時VE/契約後VE)まで踏み込む。VE は製造業の資材部門から始まったが、日本では公共工事の入札・契約制度に組み込まれた形で最も明示的に運用されているからだ。先に結論だけ言えば、3 つのうち機能そのものに手を入れられるのは設計VEだけで、契約後VEはインセンティブの設計に構造的な問題を抱えている。 さらに、ライフサイクルコストの大半が発生する維持管理段階には、そもそも VE 方式が置かれていない。設備メンテナンスの観点からその空白も見ていく。

VE の基本式 — 価値 = 機能 ÷ コスト

VE の出発点はこの一本の式だ。

価値(Value) = 機能(Function) ÷ コスト(Cost)

そして「コスト」は購入価格ではなく ライフサイクルコスト で捉える。VE の定義としてよく引用されるのは、米国防省による「最低限のライフ・サイクルコストで、必要な機能を確実に達成するために、製品やサービスの機能的研究に注ぐ企業努力」という表現だ。SJVE も「顧客が求める機能を最低のライフサイクル・コストで確実に達成する手段を実現する」と説明している。初期費用が安くても運用や交換で回収されてしまうなら、価値は上がっていない。

この式が効くのは、分子と分母を独立に動かせる ことに気づかせてくれるからだ。価値を上げる打ち手は 1 つではなく 4 つある。

パターンコスト機能価値
機能向上型維持向上
コスト削減型削減維持
両取り型削減向上↑↑
戦略投資型上昇大幅に向上

注目すべきは、この表に「機能を下げる」行がない ことだ。戦略投資型のようにコストを上げてよいケースすらあるのに、機能を下げる選択肢だけは存在しない。VE において機能低下は価値の降格であり、定義上 VE ではなくなる。

VE と CD(コストダウン)の違い

だから VE と CD(コストダウン)は似て非なるものだ。

言い換えれば、CD は分母を下げるだけの操作で、分子が一緒に下がってもかまわない。VE は分子を守る(あるいは伸ばす)制約付き最適化だ。制約がある分、当然 CD より難しい。「VE をやれ」と言われて仕様を削って持っていくのは、下手な VE ではない。VE とは別の作業(CD)をしただけだ。

VE の歴史 — 1947 年、アスベストが手に入らなかった話

VE は 1947 年に米 GE 社の L.D. マイルズ氏によって開発され、1960 年頃に日本へ導入された。SJVE は 1965 年の発足以来、その普及機関として機能してきた。

起源としてよく語られるのは、第二次世界大戦中の資材不足の逸話だ。入手困難になったアスベストの代わりを探すうちに、アスベストより安く、しかし「火災時の延焼を防ぐ」という性能はほぼ変わらない素材が見つかった。ここから 「材料そのもの」ではなく「材料が果たす機能」を追えば、代用品でも価値を落とさずコストを下げられる という原則が抽出された。

制約が発明を強制したという話で、これは VE が単なるコスト管理ではなく創造技法である理由をよく説明している。日本では当初、製造メーカーの資材部門でのコスト削減効果が注目され、その後 1960 年代から自動車・電機に、さらに建設・機械産業へと広がっていった。

VE の 5 原則

手順に入る前に、行動指針としての 5 原則を押さえておく。実務では、出てきたアイデアがこの 5 つに照らして説明できるかを確認するチェックリストとして使える。

原則内容
使用者優先の原則常に使用者の立場に立って考える
機能本位の原則果たすべき機能を追求し、機能本位に考える
創造による変更の原則アイデアや工夫により、よりよい方法を考え改善する
チームデザインの原則メンバーの知識・技術を結集し、チーム活動で改善を行う
価値向上の原則機能とコストを徹底的に追求し価値向上を図る

このうち実務で最も軽視されがちなのが チームデザインの原則 だろう。同じ製品でも、製造・営業・管理は違う情報しか持っていない。VE を個人の思いつきではなく組織的手続きとして回す前提が、この原則に置かれている。

VE の実施手順 — 3 つの基本ステップ、10 の詳細ステップ、VE 質問

VE は「価値を上げよう」という掛け声ではなく、決まった手順を持つ。3 つの基本ステップを 10 の詳細ステップに割り、各ステップに VE 質問 を対応させる構造になっている。

VEの実施手順を、3つの基本ステップ・10の詳細ステップ・各ステップに対応するVE質問の3列で対応づけた図

図の左列が基本ステップ(機能定義・機能評価・代替案作成)、中央列が情報収集から詳細評価までの 10 ステップ、右列が各ステップで立てる VE 質問だ。下部には「価値 = 機能 ÷ コスト」「機能は下げない」という原則を置いてある。

① 機能定義(分解)— ステップ 1〜3

ステップ 1:VE 対象の情報収集(それは何か)

対象について、チームで共通理解を作る。役割によって持っている情報が偏っているため、まず特有情報と問題点を全員で把握する。

ステップ 2:機能の定義(その働きは何か)

対象が果たす働き・役割・目的を定義する。ここでのコツが 名詞と動詞で「〜を〜する」の形に書く ことだ。ライターなら「熱を出す」、信号機なら「色を伝える」となる。

この書き換えが VE の一番効く部分だと読める。「ライター」と書いている限り改善案はライターの改良に閉じるが、「熱を出す」と書いた瞬間に候補が一気に広がる。手段の名前を機能の記述に置き換えることで、解の探索空間を意図的に開く操作になっている。

ステップ 3:機能の整理(その働きは何か)

定義した機能を「何のために」という問いで結び、目的と手段の関係に並べて 機能系統図 を作る。上位が目的、下位が手段の階層構造になる。

② 機能評価(分析)— ステップ 4〜6

ステップ 4:機能別コスト分析(そのコストはいくらか)

機能を確実に果たすために現状かかっているコストを、機能単位で算出する。部品単位・工程単位ではなく機能単位で集計するのがポイントだ。

ステップ 5:機能の評価(その価値はどうか)

その機能を確実に果たすために必要な 最小のコスト=機能評価値 を置く。つまり「本来いくらであるべきか」の目標値を機能分野ごとに決める。

ステップ 6:対象分野の選定(その価値はどうか)

どこから手を付けるかを 2 つの指標で決める。

価値の程度     = 機能評価値 ÷ 現行コスト
コスト低減余地 = 現行コスト - 機能評価値

前者は「どれだけ割高か」の比率、後者は「絶対額でいくら取れるか」を表す。比率だけで選ぶと金額の小さい機能に労力を吸われ、金額だけで選ぶと元から妥当な機能を無理に削ろうとする。2 つ並べて優先順位を決めるのが要点だ。

③ 代替案作成(創造)— ステップ 7〜10

ステップ 7:アイデア発想(ほかに同じ働きをするものはないか)

機能系統図を見ながら、同じ機能を達成する別手段を出す。ここは 発散思考 のフェーズで、ブレーンストーミングで量を稼ぐ。

ステップ 8:概略評価(そのコストはいくらか/必要な機能を確実に果たすか)

出たアイデアが技術的・コスト的に成立するかを粗く判定する。

ステップ 9:具体化

残ったアイデアを組み合わせ、「利点・欠点分析 → 欠点の克服 → 洗練化」のサイクルで磨く。

ステップ 10:詳細評価

複数の代替案を技術面・コスト面から評価し、実施の優先順位を決める。ここは 収束思考 で 1 つの結論に落とす。

発散と収束をフェーズとして分けているのが手順としての価値だ。アイデア出しの最中に実現性の議論を持ち込むと量が出ず、逆に絞り込みの段階で新案を出し続けると決まらない。どちらのモードにいるかを手順で明示している。

VE の事例:信号機の LED 化

身近な VE 事例として引かれるのが信号機だ。従来の電球式には「見えにくい」「コストがかかる」という課題があった。ここで目的と機能を次のように整理する。

「電球を安くする」ではなく「色を伝える」と定義したことで、光を発する手段として LED・蛍光体・プラズマなどが候補に上がる。結果として LED 化が実現した。

改善前改善後
設置費用が高額組み立てコストが下がり、設置費用が削減された
電球が切れたときの交換費用がかかるLED は寿命が長く、交換頻度が下がった
点灯状態が見えにくい光の特性により点灯状態が見えやすくなった
電気代が高い使用電力が少なく、電気代が 80% 削減された

注目したいのは、これが 両取り型(コスト削減かつ機能向上) に該当することだ。単価を下げたのではなく、視認性という機能を上げながらライフサイクルコストを下げている。5 原則に照らしても筋が通る。

5 原則信号機での現れ方
使用者優先利用者が光を識別しやすくなり、設置費用が下がって自治体も設置しやすくなった
機能本位「色を伝える」手段としてランプと色フィルターが使われていたと捉え直した
創造による変更光を発する手段は電球以外に LED・蛍光体・プラズマがある
チームデザインサービス・電気工学・機械工学・人間工学・製造など幅広い専門知を集約した
価値向上トータルコストを削減しつつ機能を向上させた

建設業での VE — 設計VE/入札時VE/契約後VE

SJVE も「VE 活動は製造業だけでなく、サービス業や建設業などでも導入され」ていると述べているが、日本の建設分野で特徴的なのは、VE が 入札・契約制度そのものに組み込まれている 点だ。国土交通省の枠組みでは、適用する段階によって大きく 3 つに分かれる。

建設プロジェクトの段階と、設計VE・入札時VE・契約後VEがそれぞれどの段階で誰の提案として行われるかを対応づけた図

図の上段が企画・計画から維持管理までの時系列、中段が各段階に対応する VE 方式と提案者、下段はコストへの影響度が上流ほど大きく下流ほど小さいことを示している。

設計VE — 発注者側が仕様を見直す

設計段階で、目的物の品質を確保しつつライフサイクルを視野に入れて工事費を含むコストを縮減する検討手法だ。国土交通省では平成 9 年(1997 年)7 月の「公共工事の品質確保等のための行動指針(中間報告)」を受け、同年 10 月 23 日の「設計VEの試行に関する手続きについて」に基づいて 平成 9 年度から試行 が始まっている。その後、国土技術政策総合研究所が 平成 16 年 10 月(2004 年 10 月)に「設計VEガイドライン(案)」 を公表し、実施手順と体制の考え方が整理された。

3 方式のうち、機能そのものに手を入れられるのはここだけだ。上流ほど改善余地が大きいという一般則が、そのまま設計VEの位置づけになっている。

入札時VE — 提案を前提に価格競争する

各競争参加者が施工方法等の技術提案を行い、その提案に基づいて入札し、価格競争によって落札者を決定する方式だ。実務上は総合評価落札方式の枠組みで運用される。

この方式が機能する理由は明快で、提案を出さないと加点されず落札可能性が下がる からだ。「工期短縮」「騒音値低減」のように発注者側が提案項目を具体的に示すため、何を提案すればよいかも明示されている。発注者が「VE 提案を出させる仕組み」を作り込んでいる形だ。

契約後VE — 受注者が施工中に提案する

技術的な工夫の余地が大きい工事で、契約後に受注者がコスト縮減の技術提案を行う方式だ。採用されれば設計図書を変更するとともに契約金額の減額変更を行い、インセンティブとして縮減額の一部が受注者に支払われる。

インセンティブの標準的な設計は、請負代金額が低減すると見込まれる額の 10 分の 5 に相当する金額(VE 管理費)を減額しない というものだ。1,000 万円のコスト縮減なら 500 万円が受注者に残る。

契約後VEのインセンティブ設計と落とし穴

ここが制度設計として興味深いところで、10 分の 5 が返るということは、裏返せば契約金額が 500 万円減る ことを意味する。自ら契約額の減額を申し出る行為に受注者が二の足を踏むのは自然だ。

実際、制度の初期にはこれが数字に出ている。日本工業経済新聞社が 2005 年に報じた関東地方整備局・関東農政局の状況は次のとおりだ。

記事は要因として「受注者がメリットを感じていないこと」と「提案項目が示されていないこと」を挙げている。

20 年前の報道なので現在の運用状況をそのまま表すものではないが、教訓としては古びていない。入札時VEが機能して契約後VEが伸びなかった差は、インセンティブの向きにある。 前者は「出さないと損をする」構造、後者は「出しても自社の売上は減る」構造だ。VE の 5 原則に照らせば正しい行動が、制度のインセンティブでは損になる。原則と制度が逆を向いているとき、動くべきは制度側だ。

設備メンテナンス視点の VE — 維持管理段階に VE 方式は置かれていない

前掲の図をもう一度見ると、維持管理の段階だけ VE 方式が空白になっている。国土交通省の 3 方式は設計・入札・施工に置かれていて、供用開始後のメンテナンスに対応する VE 方式は制度として用意されていない。

だがこれは VE の定義からすると奇妙な状態だ。VE のコストは購入価格ではなく ライフサイクルコスト で、SJVE の言い方でも「顧客が求める機能を最低のライフサイクル・コストで確実に達成する」ことが目的だった。設備やインフラでは、そのライフサイクルコストの大半が供用後に発生する。国土技術政策総合研究所も、新築時に支払う建築費を 「氷山の一角」 と表現している。

なぜ維持管理こそ VE の本命なのか

日本のインフラは高度経済成長期に集中的に整備されたため、老朽化が一斉に進む。国土交通省の集計では、建設後 50 年以上を経過する施設の割合は次のように推移する見込みだ。

施設2023 年 3 月2040 年 3 月
道路橋(橋長 2m 以上、約 73 万橋)約 37%約 75%
トンネル(約 1 万 2 千本)約 25%約 52%
河川管理施設(約 2 万 8 千施設)約 22%約 65%
港湾施設(約 6 万 2 千施設)約 27%約 68%

そして保全の考え方によって、将来の費用が大きく変わる。国土交通省の推計(平成 30 年度)では、事後保全のままだと 1 年当たりの維持管理・更新費は 2048 年度に 2018 年度の約 2.4 倍になるのに対し、予防保全を基本にすれば 20 年後・30 年後ともに約 1.3 倍に抑えられるとされている。30 年後時点で見れば約 5 割の差だ。

つまり 同じ機能(インフラが機能停止しないこと)を、半分のコストで達成できる余地がある。これは価値 = 機能 ÷ コストの分母を半分にする話であり、VE が扱うべき対象そのものだ。

保全方式を VE の 4 パターンに当てはめる

ここは筆者の解釈だが、設備保全の各方式は前半で整理した 4 つのパターンにきれいに対応する。

保全方式機能コストVE のパターン
事後保全(BM)故障してから直すので機能停止を許容都度の修繕費 + 停止による損失VE 以前(分子を守れていない)
予防保全・TBM(時間基準保全)確保できる一律周期の交換なので過剰保全になりやすいコストが下がっていない
予防保全・CBM(状態基準保全)確保できる劣化状態に応じて必要な分だけコスト削減型
予防保全への計画的転換確保・向上点検や監視の初期投資は増えるが LCC は下がる戦略投資型

この対応づけが示すのは、事後保全は CD ですらないということだ。機能停止を許容している時点で分子が守られていない。一方 TBM は分子を守るが、「壊れていないものを一律に交換する」ため分母が膨らむ。VE 的に最も筋が通るのは CBM で、機能を落とさずコストだけを削っている。

なお JIS Z 8141(生産管理用語)でも予防保全は「故障を未然に防ぐことを目的として、設備の使用中に行う点検・整備・修理」と定義されており、機能維持が前提に置かれている。

保全業務そのものを機能定義する

VE の道具として実務で一番効くのは、やはりステップ 2 の 「〜を〜する」で書き直す 操作だ。保全業務に当てると次のようになる。

手段で書いた場合機能で書いた場合開ける手段の幅
月 1 回、人が巡回して目視点検する劣化を検知するセンサー常時監視、ドローン撮影、画像診断、点検頻度の状態別最適化
3 年ごとに部品を交換する機能停止を防ぐ状態監視して交換時期を判断する、冗長化して単体故障を許容する
定期的に清掃する性能低下を抑える汚れにくい材料に替える、汚れを検知して必要時だけ清掃する

「点検する」と書いている限り改善案は点検の効率化に閉じるが、「劣化を検知する」と書いた瞬間に、そもそも人が行かない選択肢が候補に入る。CBM や IoT による遠隔監視は、この書き換えの結果として出てくる代替案として理解できる。

機能別コスト分析(ステップ 4〜6)も保全に適用できる。施設単位・工種単位ではなく 機能単位で点検費・修繕費・更新費を按分し、「価値の程度(機能評価値 ÷ 現行コスト)」と「コスト低減余地(現行コスト - 機能評価値)」で優先順位を決める。これは長寿命化計画や個別施設計画で優先順位を付ける作業と同じ構造をしている。

設計VEが LCC を見ないと、コスト縮減は保全費への付け替えになる

ここが設備メンテナンス視点で最も重要な指摘だと考えている。

設計VEは工事費の縮減を目的に置くが、初期費用だけを見て縮減すると、削った分が保全費として後から出てくる。安い材料に替えて交換頻度が上がる、点検しにくい配置にして点検コストが上がる、といった形だ。このとき起きているのは価値の向上ではなく、コストを別の期間に付け替えただけの操作で、ライフサイクルコストで見れば機能あたりのコストは悪化している。VE の定義に照らせば、これは VE ではなく CD だ。

回避策は、機能系統図に 保全性(メンテナンサビリティ)を機能として明示的に入れる ことになる。「点検できる」「部品を交換できる」「劣化を検知できる」を機能として並べておけば、それを削る代替案は機能低下として弾かれる。逆に機能系統図に書いていなければ、保全性は「コスト」としてしか現れず、削減対象になってしまう。

前半で挙げた信号機の LED 化は、実はこの観点の好例だ。あの事例で効いていたのは電球単価ではなく、交換頻度の低下と電気代という供用後のコストだった。目的も「設置費用やランニングコストをトータルで削減する」と明示されている。設計段階の判断でメンテナンスコストを下げた、設備メンテナンス VE の典型例と言える。

制度としての受け皿は VE 方式ではなく別の枠組み

では維持管理段階の改善提案はどこで扱われるのか。制度上の受け皿は VE 方式ではなく、個別施設計画・長寿命化計画による予防保全への転換と、包括的民間委託になる。国土交通省は 2023 年 3 月に「インフラメンテナンスにおける包括的民間委託導入の手引き」を公表しており、複数の業務や施設をまとめて委託することで民間の創意工夫やノウハウを引き出す枠組みが整理されている。

これは筆者の見方だが、包括的民間委託は契約後VEが抱えた問題への別解として読める。契約後VEは「個別の技術提案に金銭インセンティブを付ける」設計で、縮減額の裏返しに契約額の減額が付いてくるため提案が出にくかった。包括的民間委託は逆に、委託の範囲と期間をまとめて渡して裁量そのものを与える。個別提案ごとに発注者の承認と金額調整を挟まないので、「提案すると売上が減る」という構造が発生しにくい。VE の 5 原則で言えばチームデザインの範囲を契約単位で広げたアプローチと整理できる。

VE の注意点 — VE が空回りする 3 つの条件

逆から見て、VE が空回りするのは次の 3 パターンだ。

  1. 機能を落として報告する — 機能面の品質が下がった瞬間、それは CD であって VE ではない。成果報告の前に必ず戻って確認する項目になる。
  2. 機能定義を飛ばして代替案から始める — VE は思いつきではなく手順だ。ステップ 2〜3 を省くと、ただの値下げ交渉になる。
  3. 情報収集をチーム内で閉じる — アイデアの取捨選択が難しくなる原因はたいてい情報不足だ。チーム内の知見だけでなく、社内外の専門家からも積極的に集める必要がある。

3 番目は特に、VE がチーム技法である理由と直結する。機能系統図の下位(手段)にどれだけ候補を並べられるかは、集めた知識の広さで決まる。

VE をソフトウェア開発に応用する(私見)

ここからは出典のない筆者の解釈だが、VE の道具立てはソフトウェア開発にほぼそのまま対応する。

VE が 1947 年から生き延びているのは、「安くしろ」という曖昧な要求を 機能とコストという 2 つの測れる量に分解し、機能側に下限を課した という定式化の強さによるものだろう。分解して制約を置くと、あとは手順で回せる。

明日から試すなら、担当している機能を 1 つ選んで「〜を〜する」で書き直すところから始めるのが早い。

参考リンク

まとめ



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