M5Stack・Arduino・Raspberry Pi といった IoT の基板(コンピュータ)を選ぶところまでは、比較表を見れば決められる。しかし実際に手を動かす段階で詰まるのは、たいてい基板ではなく その先につなぐセンサーの方だ。
「振動を測りたい」と思っても、振動センサーには加速度センサー型と圧電型がある。既設設備なら RS-485 経由で値を読めることもある。しかも部品の入手先が国内・海外に散らばっていて、どこで何を買えばいいのかが見えづらい。
この記事では、建設・設備関連の現場を念頭に、次の 4 点を整理する。
- 目的別 5 分類 — 何のために測るのかで引く索引
- 物理量 11 カテゴリの定番型番 — 温湿度、粉塵、振動、圧力、電流、ひずみ、測位ほか
- 信号インターフェース 7 種 — I2C からアナログ、RS-485、4-20mA、BLE まで
- 通信規格と部品ショップ 6 社 — LPWA の選び方と国内・海外の得意分野
結論を先に言えば、目的 → 物理量 → 信号 → 基板 → 通信 → 入手先の順に絞り込むのが最短ルートになる。
なお基板そのものの選定については、IoT 開発ボード(マイコン/SBC)の使い分け比較で整理している。
目的別 — 建設・設備現場のセンサー5分類
型番から入る前に、まず「何のために測るのか」で引けるようにしておくと見通しが良い。建設・設備の現場でのニーズは、おおむね次の 5 つに収まる。
| 分類 | 目的 | 代表的なセンサー |
|---|---|---|
| 1. 人員・作業安全管理 | 作業員の命と健康を守る | バイタル、慣性(転倒)、測位(GPS / BLE / UWB) |
| 2. 構造物・地盤の健全性 | 変形や崩壊の前兆を察知する | ひずみゲージ、傾斜計、水位計、間隙水圧計 |
| 3. 設備・重機モニタリング | 故障の前兆と稼働状態を掴む | 加速度、AE、CT クランプ、温度、圧力・流量 |
| 4. 環境・空間モニタリング | 暑さ・空気質・公害・省エネ | WBGT、CO2、粉塵、人感、騒音計 |
| 5. 画像・空間認識 | AI で視覚的に監視・計測する | AI カメラ(RGB / 赤外線)、LiDAR |
この 5 分類は「誰の課題を解くか」で切ったものなので、予算の出どころもここで決まる。安全管理(1)は法令対応、設備保全(3)はコスト削減、環境(4)は近隣対応や省エネ、というように稟議の通し方が変わる。
以降は、この 5 分類を実装に落とすために、物理量と信号の側から見ていく。
全体像 — 「物理量」と「信号」で実装に落とす
目的が決まったら、次は実装の話になる。ここでいきなり型番から入ると迷子になるので、2 段階に分けて考えると整理しやすい。
- ①測りたい物理量は何か(温度、振動、電流、画像…)
- ②どんな信号で出てくるか(I2C などのデジタル通信か、アナログ電圧か、4-20mA か…)
②が決まれば、基板側で必要な入力(I2C ポート、ADC、RS-485 変換など)が決まる。さらにその先には「集めた値をどうやって上位に送るか」という通信の選択がある。全体を並べると次のようになる。
補足として、図の色分けは導入難易度の目安にもなっている。
- 黄色(環境系) — モジュールを挿すだけで動くものが多い
- 緑色(電気・機械・構造系) — アナログ処理や校正が必要で、ひと手間かかる
- 橙色(画像・音声) — 配線は簡単だが、データ処理の設計が主題になる
- 赤色(人の安全・測位) — 既製のウェアラブルや測位システムを買う判断が中心
- 青色(接点・デジタル) — 既設設備の信号を拾うだけ。最も安上がり
- 紫色(既設設備・産業用) — 変換回路や電気工事が絡み、難易度が一段上がる
なお検討の順序としては①の物理量が先だが、部品の形が決まるのは②の信号であり、物理量の説明にも I2C や 4-20mA といった用語が要る。そこで以降は説明の都合上、信号 → 物理量の順で見ていく。
センサーの信号インターフェース7種 — I2C・アナログ・RS-485・4-20mA・BLE
ここが曖昧なままだと部品を選べない、という意味で最初の関門になる。
1. デジタル通信(I2C / SPI / UART)
いま新規に作るならこれが第一候補になる。センサー側で AD 変換と補正まで済ませて、デジタルの数値として返してくれるため、配線もコードも短い。
- I2C: 2 本の信号線(SDA / SCL)に複数のセンサーをぶら下げられる。環境センサーの大半がこれ。
- SPI: I2C より高速。加速度センサーの高サンプリングや SD カードなど。
- UART: 2 本で双方向。CO2 センサーや GPS、LTE モジュールなど。
M5Stack の Grove / Unit コネクタ(HY2.0-4P、2mm ピッチ)と Seeed Studio の Grove システムは、この I2C / UART / アナログをコネクタ形状で統一した規格だ。ケーブルを 1 本挿すだけで配線が終わるため試作の速度が段違いで、まずはここから探すのが定石になる。
まずは「センサーが認識できているか」を確かめるのが最短の一歩になる。Grove ポートを I2C として初期化し、つながっているデバイスのアドレスを列挙するコードは次のようになる。
// M5Stack の Grove ポート(Port A)に挿した I2C センサーを検出する
#include <M5Unified.h>
#include <Wire.h>
void setup() {
M5.begin(); // M5Unified は内部 I2C をここで初期化する
M5.In_I2C.release(); // Port A を Wire で直接使うので内部 I2C を解放
Wire.begin(21, 22); // SDA=21, SCL=22(M5Stack Basic の場合)
Serial.begin(115200);
}
void loop() {
for (uint8_t addr = 0x08; addr < 0x78; addr++) {
Wire.beginTransmission(addr);
if (Wire.endTransmission() == 0) {
Serial.printf("Found device at 0x%02X\n", addr);
}
}
delay(5000);
}
SHT3x をつないでいれば Found device at 0x44 のように表示される。ここでアドレスが出てこなければ、配線かポート種別かロジックレベルのどれかが合っていない。センサーの読み取りコードを書く前に、この確認を済ませておくと切り分けが早い。
M5Unified には外部 I2C 用の M5.Ex_I2C も用意されているので、そちらを使う方法もある。ピン番号は機種ごとに違う(CoreS3 や M5Dial は 21/22 ではない)ので、必ず対象機種のドキュメントで確認すること。
2. アナログ電圧(ADC で読む)
センサーが電圧をそのまま出してくるタイプ。基板の ADC(アナログ-デジタル変換器)で読む。
安価なセンサーや、そもそも物理現象が連続量であるもの(圧電素子、CT クランプ、可変抵抗式の水位センサーなど)はこの形式が多い。注意点は 2 つ。
- 入力電圧範囲を超えないこと。ESP32 系は 0〜3.3V が基本。5V 出力のセンサーは抵抗分圧が必要。
- ESP32 内蔵 ADC は精度がそれほど高くない。計測用途では外付けの 16bit ADC(ADS1115 など)を挟むほうが安定する。
ESP32 自体の特性(電源、省電力、無線)についてはESP32 が IoT で「最強」と呼ばれる理由で詳しく扱っている。
3. 専用高速バス(画像・音声)
画像と音声は、データ量が桁違いなので専用の経路を使う。
- 画像: Raspberry Pi なら MIPI CSI 接続の純正カメラモジュール、ESP32 系なら OV2640 を載せた ESP32-CAM や M5Stack の Unit Cam。
- 音声: I2S 接続のデジタルマイク(INMP441、SPH0645 など)。騒音レベルだけなら、アナログのサウンドセンサーで済む場合もある。
このカテゴリだけは Raspberry Pi 側が圧倒的に有利だ。Linux が動くので OpenCV や推論ライブラリがそのまま使える。マイコンで画像を扱うと、メモリと転送速度の壁にすぐぶつかる。
4. デジタル入力(GPIO / 無電圧接点)
「動いているか / 止まっているか」「開いているか / 閉じているか」を取るだけなら、センサーすら不要なことがある。設備側のリレー出力や補助接点を GPIO で読むだけだ。
- 稼働監視、扉の開閉、警報ランプの点灯
- パルス出力の積算計(電力量計、水道メーターなど)をカウント
既設設備の IoT 化では、これが最も費用対効果が高い。新しいセンサーを付けるより、すでに設備が出している接点信号を拾う方が早い。
なお接点入力だけなら、自作せずに接点端子付きの完成品デバイスを使う選択肢もある。既製品側の品揃えはSORACOM で作る店舗向け IoT ソリューションマップにまとめている。
5. 産業用シリアル(RS-485 / Modbus RTU)
空調設備、ビル管理装置、工場の計測器など、既設の機器から値を読む場合の主役。RS-485 が物理層(差動 2 線式、長距離・マルチドロップ可)で、その上に載る通信プロトコルが Modbus RTU、という関係になる。
産業用機器の世界ではこの組み合わせがデファクトスタンダードで、既存設備をつなぐなら避けて通れない。M5Stack にも RS-485 変換の Unit / Base が用意されているので、マイコン側から Modbus マスタとして読み出せる。
6. アナログ電流ループ(4-20mA)
産業用センサー(圧力トランスミッタ、差圧計など)の標準的な出力形式。4mA がゼロ点、20mA がフルスケールを表す。
電流で送るためノイズに強く、長距離配線でも電圧降下の影響を受けない。0mA は「断線」を意味するので、故障とゼロ値を区別できるのが 4-20mA の大きな利点だ。
マイコンで読むには、受信抵抗を挟んで電圧に変換してから ADC で読む。工業計測の標準は 250Ω(4mA→1V、20mA→5V の 1〜5V 信号)だ。ただし 5V は ESP32 の ADC 入力範囲を超えるため、3.3V 系で直接読むなら 150Ω 程度に落とすか分圧を挟む。過電圧で基板を壊さないためにも、専用の 4-20mA 入力モジュールを使う方が安全で確実だ。
7. 近距離無線(BLE / EnOcean)
センサーと基板を配線でつながない選択肢もある。センサー側が電波で値を飛ばし、基板やスマホがそれを受ける形だ。
- BLE(Bluetooth Low Energy): ウェアラブル(心拍・体温)、資材タグ、電池式の温湿度センサーなど。人や物に付けて動き回るもの はほぼこれになる。基板側は ESP32 系ならもともと BLE を内蔵している。
- EnOcean: 光(ソーラーセル)・温度差・押しボタンの動作(直線運動による電磁誘導)といった微弱なエネルギーで発電して動く バッテリーレスの無線規格。ドイツ発の国際規格(ISO/IEC 14543-3-10)で、ビルオートメーションでの実績が長い。電池交換が不要なので、大量に設置する照明スイッチや室内センサーで維持費が効いてくる。
配線が要らないのは大きな利点だが、電池交換または受信側ゲートウェイの設置というコストに置き換わるだけだという点は押さえておきたい。数個なら有線の方が安く済むことも多い。EnOcean が刺さるのは、そもそも配線工事が困難で、かつ設置数が多い既存建物だ。
物理量別センサー一覧 — 温湿度・CO2・振動・圧力・電流・ひずみ・測位【建設・設備現場】
次に①の側、測りたいものから見ていく。実装のしやすい順(モジュールを挿すだけで済むものから、専用計測器が必要なものへ)に並べる。
温湿度センサー(SHT3x・BME280・熱電対)
最も需要が多い定番。I2C デジタル出力のモジュールを選べばまず失敗しない。
| 用途 | 代表的な選択肢 | 備考 |
|---|---|---|
| 一般的な室内環境 | SHT3x / SHT4x(Sensirion) | I2C、精度と入手性のバランスが良い |
| 温湿度+気圧 | BME280(Bosch) | 3 つの物理量が 1 チップ |
| 入門・学習用 | DHT11 / DHT22 | 安価だが精度と応答速度は低い |
| 高温部・配管 | K 型熱電対 + MAX31855 | 1000℃ を超える範囲まで測れる |
| 高精度な温度 | Pt100 / Pt1000 + MAX31865 | 測温抵抗体、工業計測向け |
| 配電盤の発熱監視 | サーミスタ、赤外線温度センサー | 非接触で盤内の異常発熱を検知 |
| コンクリート養生温度 | 熱電対、サーミスタ(埋設型) | 打設後の強度管理。使い捨て前提 |
室温レベルなら I2C モジュールで十分だが、設備の配管や排気の温度は範囲を超えるので熱電対に切り替える必要がある。ここを見落とすと現場でセンサーが壊れる。
温度は「測りやすいのに用途が広い」ため、最初の一歩に向く物理量だ。特に配電盤の発熱監視は、火災リスクの低減という分かりやすい価値があり、非接触なので設備を止めずに設置できる。
空気質センサー(CO2・粉塵/PM2.5・ガス・TVOC)
換気状況の可視化や、工事現場の粉塵管理で使う。
- CO2: SCD40 / SCD41(Sensirion、光音響方式、I2C)、MH-Z19C(NDIR、UART)。MQ 系の安価な「CO2 センサー」は実際には他のガスに反応するもので、CO2 の定量には使えないので注意。
- 粉塵 / PM2.5: SPS30(Sensirion)、PMS5003(Plantower)。どちらもレーザー散乱方式でファンを内蔵する。ファンがある=可動部があるため、寿命と設置向きに配慮が必要。
- TVOC / 揮発性有機化合物: SGP30 / SGP40(Sensirion)。
- 可燃性ガス: MQ シリーズ(MQ-2、MQ-5 など、アナログ出力)。安価だが定性的な検知向け。一酸化炭素を狙うなら CO 用の MQ-7 / MQ-9 を選ぶ。
- 酸素濃度(酸欠検知): 電気化学式の酸素センサー。トンネル、ピット、マンホール、タンク内など 閉所作業の命に関わる用途。
酸欠・中毒の検知は、他の空気質センサーとは性格が違う。測って可視化するのが目的ではなく、退避を判断するための装置なので、自作の IoT センサーで代替してはいけない領域だ。作業者の安全に直結する測定には、法令・規格に適合した専用のガス検知器を使い、IoT 側はその補助(遠隔での状況把握や記録)に留めるのが正しい設計になる。
暑熱・気象センサー(WBGT・風速計)
2025 年 6 月施行の改正労働安全衛生規則で、職場の熱中症対策が罰則付きで義務化された。WBGT 28 度以上または気温 31 度以上の環境で、連続 1 時間以上または 1 日 4 時間を超える作業が対象となる。体制整備や手順の作成を怠った場合は、6 か月以下の拘禁刑または 50 万円以下の罰金が科され得る。この法改正が、現場での暑熱センシングの需要を一気に押し上げている。
- WBGT(暑さ指数): 気温・湿度・輻射熱(日射や地面からの熱)を取り入れた指標。専用の WBGT 計、または黒球温度センサーを組み合わせて算出する。温湿度だけでは WBGT にならない(輻射熱を拾えないため、屋外で大きくずれる)点が要注意。風速は自然湿球温度と黒球温度を通じて間接的に反映される。
- 風速: 風速計(カップ式、超音波式)。屋外クレーン作業の中断判断は風速基準で決まるため、現場に実測値があると判断の根拠になる。
- 雨量・気圧: 転倒ます式雨量計、気圧センサー。造成現場の排水管理や作業計画に使う。
WBGT を自作するなら黒球の設計がハードルになるので、まずは既製の WBGT 計で実測し、IoT 化は値の遠隔収集から始めるのが現実的だ。
振動・加速度センサー(ADXL345・MPU-6050・AEセンサー)
設備の異常検知、構造物のモニタリング、機械の稼働判定に使う。
- 加速度センサー(MEMS): ADXL345(I2C/SPI)、MPU-6050(加速度+ジャイロ)、ICM-42688 など。M5Stack では Gray / Fire / Core2 / CoreS3 / StickC / Atom Matrix など多くの機種が本体に IMU を内蔵しており、追加部品なしで振動を試せる。ただし初代 Basic と ATOM Lite は非搭載なので、購入前に機種ごとの仕様を確認すること。
- 傾斜・姿勢: 上記 IMU で算出。仮設足場や重機の傾き監視など。
- 高周波の振動解析: MEMS では帯域が足りない場合、圧電式の加速度ピックアップ(アナログ出力)+高速 ADC が必要。
- AE(アコースティック・エミッション)センサー: 材料が変形・破損するときに出る弾性波を拾う。振動センサーが「壊れたこと」を検知するのに対し、AE は劣化の初期段階を捉えられるのが決定的な違いで、軸受の摩耗やき裂の進行を早期に掴める。ただし計測系は AE センサー+プリアンプ+専用の計測システムという構成になり、マイコンで気軽に読むものではない。
- 構造物の振動応答: 地震後の健全性評価では、固有振動数の変化を見る。高精度・低ノイズの加速度計が必要で、汎用 MEMS では分解能が足りないことが多い。
振動監視で肝になるのは サンプリングレートだ。稼働 / 停止の判定なら数十 Hz で足りるが、ベアリングの異常診断のような周波数解析をやるなら kHz オーダーが必要になり、基板とバスの選定が変わる。AE まで踏み込むと数百 kHz 以上の領域で、そもそも専用計測器の世界になる。
この帯域の見積もりが、IoT センサー選定で最も外しやすいポイントだ。「振動で異常検知」という要件だけを受け取って MEMS 加速度センサーを買うと、稼働判定はできるが異常診断はできない、という結果になりやすい。
どこまでの精度を狙うべきかは、保全のレベル(事後保全 → 予防保全 → 予知保全)に依存する。この段階整理はSORACOM で考える設備保全の高度化ラダーにまとめている。
圧力・差圧・流量・水位センサー(BMP280・圧力トランスミッタ)
配管とタンクまわりは、障害が目に見えるので成果を説明しやすい領域だ。
- 気圧: BMP280 / BME280(I2C)。標高換算にも使える。
- 配管の圧力: 産業用の圧力トランスミッタ。4-20mA または RS-485 出力が主流。
- フィルタの目詰まり(差圧): 差圧センサー。空調機のフィルタ交換タイミング検知は定番用途。
- 流量: 羽根車式(パルス出力)、超音波式(非接触・後付け可)、電磁式。パルス出力なら GPIO でカウントするだけなので実装は簡単。
- レベル(タンク残量): 超音波・ToF による非接触測定、静電容量式、圧力式。燃料タンクや薬液タンクの残量管理に使う。
- 水位・漏水: フロートスイッチ(接点)、静電容量式、水没検知シート。漏水検知は接点入力で済むことが多い。
配管系は「漏水・詰まり・残量切れ」という分かりやすい障害に直結するため、成果の説明が容易な領域だ。既設配管に後付けするなら、非接触の超音波式が工事の負担を最小にできる。
電流・電圧センサー(SCT-013 CTクランプ・INA219)
「設備が動いているか」を最も確実かつ非破壊で取れるのがこれ。
- CT クランプ(分割型変流器): SCT-013 シリーズなど。既存の電線を切らずに挟むだけで交流電流が測れる。ただし型番によって出力形式が違う。
- 電圧出力型(SCT-013-030 など、1V 出力): 負荷抵抗(バーデン抵抗)が内蔵済みで扱いやすい
- 電流出力型(SCT-013-000 など): 負荷抵抗(数十Ω)を並列に入れて電圧化し、交流なので DC バイアス回路も必要
- DC の電流電圧: INA219 / INA226(I2C)。ソーラーパネルやバッテリー駆動機器の消費電力監視。
- 電力量計との連携: パルス出力を GPIO でカウント、または Modbus 対応のスマート電力計から読む。
CT クランプは「センサーを付けるために設備を止める必要がない」ため、稼働中の現場に後付けしやすい。IoT の導入障壁を大きく下げる部品だ。
ひずみ・傾斜センサー(ひずみゲージ・傾斜計)
構造物や仮設物の変形を捉える領域。土木では「計測管理」として体系化されており、山留め壁や足場の管理では従来から人手で測っていたものを、IoT で連続監視に置き換える流れがある。
- ひずみゲージ: 金属の伸縮による抵抗変化を読む。ブリッジ回路(ホイートストンブリッジ)+計装アンプ+高分解能 ADC が必要で、出力が微小なうえ温度補償も要るため、他のセンサーとは難易度が一段違う。専用のひずみ測定モジュールを使うのが現実的。
- 傾斜計(チルトセンサー): 足場や山留め壁の傾きを監視する。無線式の傾斜計が製品として出回っており、手作業の計測を省人化する用途で導入が進んでいる。加速度センサーで傾斜を算出する方式もあるが、長期の絶対精度が要る用途では専用品を選ぶ。
- 変位計・沈下計: ワイヤー式、レーザー式。構造物のたわみや地盤の沈下量を直接測る。
このカテゴリは 「自作するより買う」判断が正解になりやすい。ひずみの微小信号を安定して拾うにはアナログ回路の設計力が要り、しかも失敗が構造物の安全に跳ね返る。土木計測機器メーカーの既製品を使い、IoT 側はデータ収集と可視化に集中する方が筋が良い。
地盤・地下水センサー(水位計・間隙水圧計・土壌水分計)
土砂崩れや土留めの崩壊は、地下水の挙動と強く結びついている。
- 地下水位計: 圧力式(水中に沈めて水圧から水位を算出)。ボーリング孔に設置する。
- 間隙水圧計: 土中の水圧を測る。山留め壁にかかる力の評価に使い、土木計測の定番項目。
- 土壌水分計: 静電容量式、TDR 式。斜面崩壊の前兆監視や、農業での灌水制御。
- 地すべり計: ボーリング孔に埋設した塩ビ管のひずみから、すべり面の位置を推定する手法もある。
いずれも屋外・単独設置・長期運用という条件が揃うため、電源と通信の設計が本体より重くなる。太陽光+バッテリーで駆動し、LPWA で少量のデータを間欠送信する構成が典型になる。
人のセンシング(バイタル・転倒検知・測位)
作業員の安全管理はセンサーを「設備」ではなく「人」に付ける領域で、他のカテゴリとは選定の考え方が大きく違う。
- バイタル(心拍・体温): リストバンド型やベスト型のウェアラブル。心拍の上昇と体表温から 熱中症の前兆 を捉える。BLE でスマホやゲートウェイに送る構成が主流。
- 転倒・転落検知: 加速度+ジャイロ(IMU)で衝撃と姿勢変化を判定。ヘルメットや腰ベルトに装着する。
- 測位(屋外): GPS / GNSS。重機や車両の位置管理、屋外での作業員把握。
- 測位(屋内・地下): GPS が届かないトンネルや地下では、BLE ビーコンか UWB を使う。
測位方式の選択は精度要件で決まる。BLE ビーコンは電波強度(RSSI)から推定するため誤差 50cm〜3m 程度、UWB は電波の到達時間で測るため誤差数十 cm(ただし到達距離は 30m 程度)と、精度が一段違う。
ただしこの数値はカタログ値だ。BLE の 50cm はメーカー公称の好条件下の値で、遮蔽物の多い現場では数 m に劣化しやすい。逆に Bluetooth 5.1 以降の AoA(方向探知)を使えば BLE でもサブメートル級を狙えるので、最終的には製品ごとの実測値で判断したい。
- 資材や人の「どのエリアにいるか」を知りたいだけなら BLE ビーコンで十分
- 重機と作業員の接近警報のように 数十 cm の精度が安全に直結する用途は UWB
ここは自作の対象ではなく、既製のソリューションを選定・導入する領域だと割り切った方が早い。人体に装着するデバイスには快適性や防水性、装着率という運用課題があり、部品を組み合わせて作れるものではない。
距離・人感・照度センサー(VL53L0X・HC-SR501・MLX90640)
「モノや人がそこにあるか」を取る領域で、省エネ制御と在庫管理が主な用途になる。
- 距離: VL53L0X / VL53L1X(ToF、レーザー、I2C)、HC-SR04(超音波、安価)。在庫量、貯水位、車両の有無などに使う。
- 人感: PIR センサー(HC-SR501 など、接点的なデジタル出力)。
- 人数・熱分布: MLX90640 などの赤外線サーモセンサーアレイ。カメラを使わずに人の存在を取れるので、プライバシー面で採用しやすい。
- 照度: BH1750、TSL2591(I2C)。人感と組み合わせて、滞留に応じた照明・空調の最適化に使う。旧世代の TSL2561 より、ダイナミックレンジの広い TSL2591 の方が新規設計には向く。
画像・音声センサー(カメラ・LiDAR・I2Sマイク)
データ量が桁違いに大きく、処理方式の設計が主題になる領域だ。
- 画像: 現場の目視確認の代替、メーターの読み取り(OCR)、ヘルメットや安全帯の未着用検知、資材の自動カウント。Raspberry Pi + カメラモジュールが基本構成。赤外線カメラなら暗所や発熱の検知にも使える。
- LiDAR(2D / 3D): レーザーで距離を面・立体的に測る。盛り土の体積測定や、点検ロボットの自己位置推定(SLAM)に使う。カメラでは苦手な「立体形状の定量化」が本領。接続は Ethernet や USB が多く、Raspberry Pi 以上の処理能力が前提になる。
- 音声 / 異音検知: I2S マイクで生波形を取り、FFT や機械学習にかける。
- 騒音(公害計測): 敷地境界での連続測定。近隣対応の記録として残す用途では、計量法に基づく騒音計の等級が問題になることがあるので、参考値として使うのか、公的な記録として使うのかを先に決める必要がある。
この 3 つは「センサーを付ける」よりも「データをどう処理するか」がプロジェクトの主題になる。エッジで推論するのか、クラウドに上げるのかで構成が大きく変わるので、先に処理方式を決めてから基板を選ぶべき領域だ。
そして帯域の制約が効いてくるのがここだ。画像や振動の生波形は LPWA では送れないため、「エッジで判定して結果だけ送る」設計が事実上必須になる。この点は次のセクションで整理する。
上位への通信 — 有線・Wi-Fi・LPWAの選び方
センサーを基板につないだだけでは IoT にならない。値をクラウドや監視室に届ける経路が必要で、ここが現場条件で最も制約を受ける部分だ。「電源はあるか」「Wi-Fi は届くか」「送るデータ量はどれくらいか」の 3 つで決まる。
| 通信 | 電源 | データ量 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 有線 LAN | 必要 | 大 | 機械室、サーバー室。最も安定 |
| Wi-Fi | 必要 | 大 | 屋内で AP が届く範囲。画像も送れる |
| LTE-M / 4G | 電池運用も可(PSM / eDRX) | 中 | 屋外、移動体、単独設置 |
| LoRaWAN | 電池で年単位 | 極小 | 広域に多数設置、数値だけ送る |
| Sigfox | 電池で年単位 | 極小 | 同上。1 日の送信回数に上限あり |
| BLE | 電池・環境発電 | 小 | ウェアラブル、タグ。ゲートウェイ必須 |
| EnOcean | 不要(環境発電) | 極小 | 既存建物の照明・室内センサー |
LPWA の使い分け
LPWA(Low Power Wide Area) は「電池で長期間動き、遠くまで届くが、送れるデータは極小」という通信の総称だ。
- LTE-M: 携帯網を使うので 基地局を自前で用意しなくてよい。屋外や移動する対象に強く、LPWA の中では比較的データ量に余裕がある。SIM の月額費用がかかる。
- LoRaWAN: 自前でゲートウェイを立てられるのが特徴。敷地内に多数のセンサーを置く構成でランニングコストを抑えやすい。反面、ゲートウェイの設置と運用が自分の責任になる。
- Sigfox: 国内では京セラコミュニケーションシステム(KCCS)が事業者。上り 1 回 12 バイト・1 日 140 回までという明確な上限があり、極小データの用途に振り切っている。なお Sigfox の本家は 2022 年に経営破綻を経て UnaBiz に買収されており、採用時は事業継続性も評価軸に入れておきたい。
見落としやすい制約
LPWA では画像も振動波形も送れない。1 回に送れるのは Sigfox で 12 バイト、LoRaWAN でも条件次第で数十〜200 バイト程度なので、「温度 23.5℃」のような数値を 1 時間おきに送る用途に限られる。
したがって画像や振動解析をやるなら、選択肢は次の 2 つになる。
- Wi-Fi / LTE で生データを送り、クラウドで処理する — 電源と通信費が確保できる場所向け
- エッジで判定し、結果だけを LPWA で送る — 「異常あり / なし」だけなら数バイトで済む
2 番目が成立するかどうかで基板の選定が変わる(エッジ推論をやるなら Raspberry Pi 以上)。通信を後から考えると、基板を選び直す羽目になるのはこれが理由だ。
IoTセンサーはどこで買う?部品ショップ6社の使い分け
センサー選定と同じくらい重要なのが入手先だ。同じ部品でも、扱っている店によって「モジュール化されているか」「日本語ドキュメントがあるか」「単価と納期」が変わる。
前半 2 社が海外(メーカー直系・モジュール指向)、後半 4 社が国内(正規代理店・パーツ全般)だ。
Seeed Studio — Grove の本家、モジュール化されたセンサー群
中国・深圳。Grove システムの本家で、センサーをコネクタ規格に統一してモジュール化している。コネクタ形状は M5Stack と共通(どちらも HY2.0-4P)で、物理的にはそのまま挿さる。Wiki に配線図とサンプルコードまで揃っているのが強みで、一部は日本語化されている(個別センサーの詳細ページは英語が中心)。LoRa や産業用の SenseCAP シリーズも展開している。
ただし コネクタ形状が同じでも中身の信号は別物だ。Grove には I2C 版・デジタル版・アナログ版・UART 版があり、M5Stack の Port A(赤)は I2C 前提。さらに Grove モジュールの一部は 5V ロジック前提で、ESP32 の 3.3V 入力に直結できないものがある。「挿せるから動く」とは限らない。
Adafruit — チュートリアル品質で選ぶ
米国。教育・メイカー向けの老舗で、チュートリアルの品質が圧倒的に高い。「このセンサーをどう使うか」が Python / Arduino 両方のライブラリ付きで解説されており、CircuitPython 系のエコシステムが充実している。マイナーなセンサーの実装で詰まったとき、まず Adafruit の Learn ページを探すと解決することが多い。
海外通販の注意 — 送料・納期・技適
海外通販は単価が安い一方、**送料と納期、そして技適(日本の電波法の技術基準適合証明)**に注意が必要だ。Wi-Fi や LoRa などの無線モジュールを日本国内で電波を出して使うなら、技適マークの有無を必ず確認する。センサー単体なら問題にならないが、通信機能を持つ基板を買うときは避けて通れない論点だ。
スイッチサイエンス — 国内正規代理店、試作の初速
Raspberry Pi、M5Stack、Arduino などの 正規代理店で、モジュール類が中心。海外の面白い基板を日本国内から翌日レベルで買えるのが最大の価値。日本語の商品説明とサポートがあり、技適の情報も明示されている。
秋月電子通商 — 単価の安さとセンサーIC
単価の安さと基本部品の品揃えで定番。抵抗、コンデンサ、LED、各種センサー IC、電源モジュールなど、回路を自分で組むときの部品調達先。実店舗(秋葉原など)があり、データシートへのリンクも整備されている。
マルツ — Digi-Key 経由の正規流通品
コネクタ類の品揃えが広く、他店で見つからない部品が見つかることがある。Digi-Key の国内代理店でもあるため、海外の正規流通品を 1 個から国内発送で取り寄せられるのが実務上大きい。
共立エレショップ — スイッチ・ケースと調達の二重化
共立電子産業が運営。秋月と品揃えが近いが、スイッチ類やケース、キットに強い。秋月に在庫がない IC が見つかることもある。
使い分けのまとめ
| 目的 | 第一候補 |
|---|---|
| とりあえず試作を動かしたい(国内・翌日) | スイッチサイエンス |
| Grove でモジュールを挿すだけにしたい | Seeed Studio / スイッチサイエンス |
| 実装で詰まった、ライブラリと解説が欲しい | Adafruit |
| センサー IC や受動部品を安く揃えたい | 秋月電子通商 |
| 正規流通品・コネクタ・量産を意識した調達 | マルツ(Digi-Key 経由) |
| スイッチ・ケース・秋月の在庫切れ時 | 共立エレショップ |
実務での進め方 — 5ステップ
最後に、この整理をどう使うかをまとめる。
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目的から入り、5分類のどこかを決める 安全管理なのか、設備保全なのか、環境なのか。ここで予算の出どころと、求められる信頼性の水準が決まる。人命に関わる測定(酸欠検知、接近警報)は、そもそも自作の対象外だと最初に切り分ける。
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物理量とサンプリング要件を決める 「何を、どのくらいの間隔で、どの精度で測るのか」を先に固める。ここが曖昧なままセンサーを買うと、ほぼ確実に買い直しになる。特に振動は要求帯域で構成が激変する。
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信号インターフェースから基板を選ぶ I2C で済むなら M5Stack、アナログ・接点が多いなら Arduino、画像・音声・LiDAR なら Raspberry Pi。既設設備の RS-485 / 4-20mA が絡むなら変換モジュールか産業用ゲートウェイを前提に設計する。
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通信を決める(ここを後回しにしない) 電源の有無、Wi-Fi の到達、送るデータ量の 3 点で決まる。LPWA を選ぶなら手順 3 の基板選定に跳ね返る。
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試作は国内、量産は正規流通に切り替える 最初はスイッチサイエンスや Seeed Studio でモジュールを買って動かし、量産フェーズではマルツや Digi-Key 経由で正規流通品に切り替える。技適が必要な無線モジュールは、この切り替えのタイミングで必ず確認する。
まとめ — IoTセンサーは「目的 → 物理量 → 信号 → 基板 → 通信」の順で選ぶ
軸を繋いだ早見表を置いておく。
| 測りたいもの | 代表的な選択肢 | 信号 | 第一候補の入手先 |
|---|---|---|---|
| 温湿度 | SHT4x / BME280 | I2C | スイッチサイエンス |
| CO2 | SCD40 / MH-Z19C | I2C / UART | スイッチサイエンス |
| 粉塵(PM2.5) | SPS30 / PMS5003 | UART / I2C | Seeed Studio |
| 暑熱(WBGT) | 既製の WBGT 計 | RS-485 / 独自 | 計測器メーカー |
| 振動・傾き | ADXL345 / 本体内蔵 IMU | I2C / SPI | M5Stack 本体で試せる |
| 軸受の劣化(早期) | AE センサー | 専用計測器 | 計測器メーカー |
| 電流(稼働監視) | SCT-013 CT クランプ | アナログ | 秋月電子通商 |
| 稼働・開閉 | 設備側の補助接点 | GPIO | 秋月(コネクタ類) |
| ひずみ・傾斜(構造物) | ひずみゲージ / 無線傾斜計 | アナログ / 専用 | 土木計測機器メーカー |
| 地下水位・間隙水圧 | 圧力式水位計 / 間隙水圧計 | 4-20mA / 専用 | 土木計測機器メーカー |
| 作業員のバイタル・測位 | ウェアラブル / UWB タグ | BLE / UWB | 既製ソリューション |
| 画像・体積測定 | Pi カメラ / LiDAR | MIPI CSI / USB | スイッチサイエンス |
| 既設の空調・計測器 | RS-485 変換 Unit | Modbus RTU | スイッチサイエンス |
| 産業用の圧力・差圧 | 圧力トランスミッタ | 4-20mA | マルツ(Digi-Key 経由) |
表を見ると分かるとおり、すべてを部品から自作するわけではない。温湿度や CO2、電流のように「モジュールを買って挿すだけ」で済む領域と、ひずみ・地盤・バイタル・AE のように「計測器メーカーの既製品を選ぶ」領域が明確に分かれる。
センサーのカタログをながめて選ぶのではなく、目的から順に絞り込んでいく。そしてどこで自作をやめるかを早めに決める。この 2 つを守るだけで、IoT の構成検討は驚くほど早くなる。

