本文へスキップ
hdknr blog

ビルオートメーションシステム(BAS)

建物の自動制御・中央監視システム。日本市場はアズビルとジョンソンコントロールズの寡占で、要因は技術ではなく商流・IEIEJ 準拠・既設ロックイン・実績要件の4つにある

概要

BAS(ビルオートメーションシステム)は、いわゆる中央監視を含む建物の自動制御システム全体を指す。業界語の「計装」は、センサー・コントローラ・監視装置を設計して据え付け、現地で調整するまでの一連の仕事を指す。

BACnet はオープンプロトコルで規格上は誰でも参入できる。それなのに日本市場はアズビルとジョンソンコントロールズ(JCI)の寡占が崩れない。理由は技術ではなく、ほぼ商流と歴史で説明がつく。

前提 — パイが小さい

国内の中央監視市場は年間 2,000〜2,500 システム程度とされる(業界関係者の証言レベルで一次統計ではないため精度は割り引く)。これは「全国に施工・サービス拠点を張る固定費を回収できるプレイヤーが構造的に数社しか成立しない」ことを意味する。障壁の前に、そもそも市場規模が小さい。

売っているのは機器ではなく、施工と保守

BAS は箱を納めて終わりではない。商流は多段になる。

発注者 → 設計事務所 → ゼネコン → 空調衛生サブコン(高砂熱学・新菱冷熱・三機工業・大気社・ダイダン等)→ 計装メーカー・計装工事会社

竣工後は長期保守契約に入る。つまり商品の実体は、据付調整と試運転、そして引き渡し後10〜20年のチューニングと保守である。制御パラメータの現地調整なしに空調は使い物にならず、それをやれる人間を全国に配置できるかが受注条件になる。

決算に出る構造 — 保守と改修がいちばん儲かる

アズビルの2025年度(2026年3月期)ビルオートメーション(BA)事業。

項目2024年度2025年度前年度比
受注高1,536億円1,637億円+6.6%
売上高1,487億円1,563億円+5.1%
セグメント利益243億円289億円+18.6%
利益率16.4%18.5%+2.1pp

連結全体は売上高2,989億円・営業利益473億円(営業利益率15.8%)。BA 事業だけで連結売上の半分強を占め、3事業(BA / AA / LA)で利益率が最も高い。

決算説明資料は BA 事業の売上増について「新設建物向け分野が減少したが、既設建物向け分野・サービス分野が着実に増加」とし、翌年度見通しでも「収益性の良い既設建物・サービス分野を主体とした増」と書いている。会社自身が「既設と保守のほうが儲かる」と明言している。そして既設と保守の案件は、その建物を最初に手掛けたベンダーに向かう。

参入を阻む4つの障壁

① 全国の施工・サービス拠点網

製品スペックで勝ってもこの網は短期に作れない。JCI 日本法人の45拠点は50年の蓄積であって買ってこられるものではない。正確には「メーカー単独の拠点網」ではなく「メーカー+特約店・計装工事会社のネットワーク全体」で、この階層構造ごと組み上げる必要がある。

② 日本独自の BACnet プロファイル — IEIEJ 準拠

見落とされやすい障壁。BACnet は ASHRAE の世界標準だが、日本の中央監視で実際に要求されるのは電気設備学会(IEIEJ)の日本仕様への準拠である。

「BACnet 対応」を名乗るだけでは足りず、日本仕様のガイドラインに合わせ込む必要がある。海外の標準品をそのまま持ち込めない壁であり、逆に規格策定の場にいる既存プレイヤーには有利に働く。

③ 既設資産のロックイン

BACnet で相互接続できることと、更新時に他社へ乗り換えられることは別問題である。中央監視装置は10〜20年で更新されるが、天井裏や機械室の末端コントローラはそのまま残ることが多い。しかも末端側の通信が必ずしも BACnet とは限らない(アズビル FCU コントローラ形WJ-1202 は SmartScreen2 接続時は専用通信になる)。既設に専用プロトコル区間が混ざっている限り、乗り換えコストは跳ね上がる。

④ 仕様書に書かれる実績要件

設計事務所が書く仕様書には納入実績や保守体制が条件として入ることが多い。実績がなければ受注できず、受注できなければ実績が作れない。典型的な循環参照で、③と噛み合うと参入の余地はさらに狭くなる。公共工事のようにライフサイクルコストで評価される案件ではこの傾向が強まる。

「2社だけ」ではない — 生態系として見る

寡占と言っても2社が単独で市場を持っているわけではなく、メーカー・特約店・計装工事会社・サブコンからなる階層的な生態系が実体である。Siemens や Schneider が日本で薄いのも、製品力ではなくこの生態系に入り込めていないことで説明できる。

何が変わりつつあるか

「ビル OS」やスマートビルガイドラインの整備が、データ連携層を制御層から切り離す方向に働きつつある。監視・分析をクラウド側に寄せられるなら、制御の寡占とデータ活用の寡占は分離しうる。

関連ページ

ソース記事