概要
アクティビスト(物言う株主)の買い集めは、保有割合が 5% を超えるまで制度開示のどこにも存在しない。したがって大量保有報告書を主シグナルに置くと、構造的に事後しか取れない。兆候を捕まえるには報道を主シグナルにし、EDINET を「まだ開示が無いこと」の確認に反転利用する設計になる。
大量保有報告書の制度
- 保有割合が 5% を超えたとき提出義務が発生。期限は義務発生日の翌日起算 5 営業日以内
- 提出後も保有割合が 1% 以上増減するたびに変更報告書が必要。アクティビストの積み増しを追うなら変更報告書が本体
- 最も効くシグナルは保有目的欄の「重要提案行為を行うことを保有の目的とする」という文言
- 2026 年 5 月 1 日施行の改正で現金決済型デリバティブが報告対象に追加(スワップでエクスポージャーを積む手口が見えるようになり検知側に有利)。一方協働エンゲージメント特例で共同保有者から除外されるケースが増え、合算されず検知しにくくなる方向もある
EDINET と報道の非対称
| EDINET | 報道(日経など) | |
|---|---|---|
| 収録の根拠 | 報告義務 | 取材 |
| 網羅性 | 100%。漏れない | 低い。書かれなければ存在しない |
| 適時性 | 5 営業日ラグ。5% 未満は載らない | 5% 到達前に出ることがある |
| 機械可読性 | 構造化・無料 API | なし(見出しのみ間接的に取得可) |
| 検証可能性 | バックテスト可 | 不可 |
EDINET は「遅いが漏れない」、報道は「早いが漏れる」。 この非対称そのものがシグナルになる。検知したい状態は「報道は出ているのに EDINET にはまだ大量保有報告書が無い」ペア。
検知パイプライン
- 収集 — Google News RSS にアクティビスト名辞書を投げる。ファンド名 10 件の OR で 100 件の上限に張り付くため辞書は 3 件ずつ分割する
- 同名衝突の除去 — カタカナ姓のファンド名は単独では使えない(「ダルトン」でラグビー選手、「エリオット」で野球選手が混入する)。金融文脈語との AND が必須
- 事後記事の除去 — ヒットの大半は株探・kabushiki.jp・日経会社情報DIGITAL が EDINET から自動生成した記事で、正しいが全部事後。「変更報告書 No.N」「保有割合が◯%に上昇」などの定型句と配信元で落とす
- 兆候判定 — docTypeCode 350 / 360 に当該ペアが「無い」ことを確認し、観測記事の語彙(「関係者によると」「方針を固めた」「書簡を送」など)で加点する
- 裏付け — 出来高 z-score や立会外取引(ToSTNeT)で加点。米系ファンドなら SEC EDGAR の全文検索(
forms=SC 13D、認証不要・User-Agent 必須・10 req/s) - 読解と構造化 — 人間が本文を読み、「誰が・どの銘柄を・何を要求」の事実の骨だけを構造化データにする
EDINET API 側の落とし穴
secCode は提出者の証券コード(仕様書の項目 15)。大量保有報告書の提出者はファンドなので多くは null になり、買われている側の銘柄コードは取れない。対象企業は issuerEdinetCode(項目 26)から EDINET コードリスト(Edinetcode.zip、cp932・5 桁証券コード)経由で引く。
なお変更報告書に独立した書類種別コードはないため、新規か変更かは docDescription の文字列で判別する。
日経コンテンツの扱い
検知は機械、読解は人間という分離は規約上の要請である。
- 日経テレコンの正規契約は「人間が読む権利」であり、Claude Code などのプログラムから扱うのは規約違反(オンライン契約 利用規約 第7条3項(5) が「生成AI等(…プログラム、ソフトウエア等を含むがこれに限られない)に入力したり…」を禁止)
- 読解の窓口は楽天証券版テレコン(0 円・直近 3 日分)か日経電子版(4,277 円/月)で足りる。テレコン正規契約が効くのは数年分のファンド行動履歴を遡るときだけ
- 正規に機械化するなら NIKKEI KAI、日経APIソリューションズ、または個別の有償利用許諾契約
限界
- バックテスト不可 — 過去のスクープを機械可読で揃えられない。アラート層に留め、自動売買のトリガーにはしない
- recall が低い — 報道されなければ兆候は存在しない。網羅性は EDINET 側で担保する
- 見出し利用もグレー — YOL 事件(知財高裁 平成 17 年 10 月 6 日)は見出しの著作物性を否定した上で無断配信の不法行為責任を肯定している
関連ページ
- 株式データソースの3層構造 — 「情報の非存在」という第2層の性質
- 分類別の先行指標 — 資産株のカタリストとしてのアクティビスト登場
- EDINET XBRL を Python で扱う — 書類取得と XBRL パースの基本
- J-Quants API — 出来高による裏付けのデータ源
ソース記事
- 大量保有報告書の「前」を検知する — EDINET API とニュース見出しでアクティビストの兆候を捕まえる — 2026-08-05
- 株価が上昇に転じる兆候 — 銘柄分類別に見る先行指標 — 2026-08-03